第51話 ユーリと一緒に

 あれよあれよという間に、ユーリに連れ去られ、子どもたちに挨拶もできなかったわ!

 ということで、私、今、おしゃれなカフェにいます。

 静かで、落ち着いた雰囲気の個室。窓からは町の景色が一望できて、きれい!


 さすが、ユーリ。いいところ知ってるわね。

 やっぱり、女性と来てるんだろうね。もてるし。


 そんなことを思っていたら、ユーリが私の顔を見て言った。


「アデルと来ようと思って、下見で何回か来ただけ。もちろん、一人でね。他の誰とも来てないよ」


「え、また、心の声がでてた?」


 私があわてて聞くと、ユーリはフフッと笑った。


「そうじゃないけど、なんか、アデルの考えてること、よくわかるんだよねえ」


 えっ! まずい。変なこと、考えないようにしなきゃ。

 ユーリの悪口とか、悪口とか、悪口とか……。


 焦る私とは反対に、すごーくご機嫌なユーリ。


「アデル、お昼食べてないでしょ。色々、頼んだから」

と、楽しそうに微笑んだ。


 背景に花が咲きほこっているのが見えた気がするわ。

 邪気がない時のユーリの笑顔は天使みたいで、ほんと、見とれてしまうわね。


 まあ、テーブルいっぱいに、並んだお料理にも見とれてしまっている私ですが。

 ムフフフ、美味しそう!


 一口サイズの、いろいろな種類のサンドイッチや、これまた、いろいろな種類のお菓子など、素敵に並べられている。


 これって、好きなものを好きなだけ選んで食べていいってことよね!

 いつも食べている王宮のお食事とは違って、カジュアルな感じで心がはずむわ!


「いただきます!」


 まずは、どのサンドイッチから食べようかな……。

 ぱっと見て想像がつかないものから食べたいわね! だって、楽しそうだもの。


 ということで、ひとつとり、もぐもぐもぐ。


「うわあ、……蟹!? これ、すごく美味しいわよ、ユーリ!」


「喜んでくれて良かった」

 

 そう言って、うれしそうな顔で、食べもせずに私を見ているユーリ。


「ええと、ユーリ? どうかした? 今日、なんか変だよ」


「変? どこが?」


「うーん、いつもみたいな毒気がないというか……。ライオンが猫っぽいというか……」


「毒気ねえ……。だそうと思えば、いつでもだせるけど。欲しい?」


 私はぶんぶんと首を横にふった。


「いらない! いりません! ご遠慮します! 今のユーリがいい!」


 私の言葉に、ユーリが艶やかに微笑んだ。


「じゃあ、今の僕が好きなんだ?」


 私は首を縦にふった。


「うん、今のユーリのほうが好き! 毒気はいりません!」


「へええ。なんかいいね。もう一回言って?」


 え?


「毒気はいりません?」


「そっちじゃなくて。ほら、その前の言葉」


「ええと……今のユーリのほうが好き?」


「そう、それ。アデル、僕のこと好きなんだ。いいね。ほら、もっと食べて」


 ん? なんか、そこだけ切り取ると、変な感じだけど……?


 ま、いいか。と、次のサンドイッチを口に入れる。

 

 はあああ、今度は定番のビーフだった! これもまた絶品ね!

 ほんと、美味しいは幸せだわ!


 そんな私をユーリは嬉しそうに見ている。

 そんなに見られたら、ちょっと食べにくいんですが。


 ……と言いつつ、食べるけれど。


「ユーリも食べたら? やっぱり、今日のユーリ、なんか違うわね」


「そうかな? まあ、ちょっと反省したんだ」


「反省? ユーリも反省するの?」


「いや、今まではしたことがない。でも、アデルの取り扱いが間違ってたって、反省したんだ。だって、僕がいなくても、アデルは楽しそうだから」


 ん? どういうこと? 意味がわかりませんが?


「これからは、僕がいないとアデルが生きられないようにしようと思って。まずは餌付け。だから、どんどん食べてね、アデル」

と、ユーリが最後にひときわ甘い声色で私の名を呼んだ。


 サンドイッチを食べていた手がとまる。


 なんか、今、不穏なことを言われなかった?

 私、これ、食べていいのかしら……?

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