第52話 危ない、危ない

 おなかいっぱいになったところで、さあ帰ろうと思ったら、ユーリがリボンがかかった箱を二つ差し出してきた。


「さっき、子どもたちにお土産を渡したけれど、アデルにもあるんだよ。どうぞ」


「え、ありがとう……」


 ふと、さっきの動物たちのお菓子がうかぶ。

 かわいいけれど、かわいそうな感じの……。


「ほら、開けてみて」

と、ユーリが微笑んだ。


 長年の習性で、つい警戒してしまうのだけれど。

 まさか危険物ではないわよね?


 まずは、少し大きめの箱を手にとり、リボンをほどいて、そっと、ふたを開けてみた。


「えっ……! ネックレス!?」


 びっくりした!

 ユーリからもらうのは、いつも美味しいお菓子だから、アクセサリーなんて初めて。


「つけてみて?」

 

 ユーリに即されて、ネックレスを手にとった。


 ハート型の一粒の宝石が青く輝いていて、本当にきれい!

 こうみえて、きれいなものも好きなんです。ドキドキ。


 では、早速、つけてみようっと!


「あれ? これ、すごく短くない?」


 つけてみたら、ぴったりと首に沿った。


「チョーカーだからね」


 なるほど。短すぎて、自分では見えない。

 あとで、鏡で見てみようっと!


「でも、すごい! 私の首に、ぴったりのサイズね」


「まあ、オーダーだから。だって、ゆるんでたら、首輪にならないでしょ」


「え、首輪……? ちょっと、なにそれ!?」


「もちろん、飼い主から逃げないようにだよ」

と、ユーリが甘い微笑みを投げかけてくる。


 いやいや、それおかしいから!

 私はユーリのペットじゃないもの!


「ほら、もうひとつのほうも開けてみてよ」


 もう、嫌な予感しかない……。

 とりあえず、小さい箱のほうも開けてみた。


 うっ……! なんてこと!

 悔しいけれど、不覚にも、一目ぼれしてしまったわ。


 だって、だって、だって、

「これって、本のしおりよね……?」


 私はその美しい品物を食い入るように見つめながらつぶやいた。


「そうだよ。これなら、アデルも使えるよね?」

と、ユーリの楽しそうな声が返ってくる。


 金細工の流れるような繊細なフォルム。その先に垂れ下がる、雫型の青い宝石。 

 チョーカーとおそろいの宝石よね。


 なんて、贅沢なしおりなの? 素敵すぎるわ! 

 本好きの私は胸をうちぬかれました。


「嬉しい、嬉しい、嬉しい! ありがとう、ありがとう、ありがとう、ユーリ!」


 嬉しすぎて、思わず、わきあがる気持ちを連呼してしまう。


「どういたしまして。そんなに喜んでもらえて、僕も嬉しいよ。その青い宝石を探すのに、すごく時間がかかったんだ」


「どちらも同じ宝石よね。まったく同じ色だもの。すごい、きれいね! この色、好き!」


 私がそう言うと、ユーリはとろけるような甘い笑みを浮かべた。


「良かった。それ、僕の瞳の色だから。アデルが好きだなんて嬉しいよ」


 あ、言われてみれば……。

 私は手に持っている本のしおりの宝石と、ユーリの瞳を見比べてみた。


 微妙な色あいまでそっくりの青!


 改めて見ると、本当にユーリの瞳ってきれいな青色よね。

 思わず、吸いこまれそうになる。

 

 危ない、危ない、魔王なのに……。


「チョーカーの宝石は、アデルを見る人に、僕の目が監視していることをわからせられるし、本のしおりの宝石は、アデル自身が、僕が見ていることを思い出す。いいアイデアでしょ?」

と、上機嫌で説明したユーリ。


 なんだか、理由が怖いわね。


 さっきまでの喜びが一気に半減してしまう……。

 私は、このプレゼントを使っても大丈夫なのかしら?

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