第48話 魔除け

「ちょっと、ユーリ! どうしてここがわかったの?」


「魔除けをつけてたからね。ほら、アデルの頭に。忘れた?」


 魔除けをつけた? 頭、頭、頭?

 ……あああああ! 思い出したっ!


 市場で、ユーリが私と離れる時、頭のてっぺんにキキキキ……、したわね!

 思い出したら、顔が一気にほてってきた。


 思わず、頭を手で隠して、ユーリから後ずさる。


「でも、その魔除けで、なんでわかるの? まさか、私の居場所をユーリに知らせる機能でもあるの!?」


「そうだね。なんでもわかるよ。アデルに起きたこと」


 え? さすがに、それはユーリの嘘よね。 

 と思ったけれど、一応確認してみる。


「じゃあ、何が起きたか言ってみてよ」


「卵が割れるようになった」


 えええっ!? すごい、当たってるわ!


「ほ、他には……?」


「そうだね。助手だなんていって、浮かれてたこと? 他の男のそばでね。ほんと、ひどいよね。これって浮気なんじゃない? ねえ、アデル」


 ええと、私、浮かれていたかしら?

 いや、でも、確かに、楽しかったかも。


 ……ってことは、これも当たってるじゃない!


 なんてこと。このままだと、私の行動がユーリにつつぬけじゃない! 

 なんて恐ろしいのかしら。

 こんな、おそろしい魔除け、さっさと取ってもらわなきゃ!


「ちょっと、ユーリ! こんなおそろしい魔除け、早く取って!」


「んー、どうしようかな? アデル次第かな?」


「どうでもいいから、取って!」


「じゃあ、ひとつお願い聞いてくれる?」


 ユーリの目が、やけに光ってる。魔王感がすごいわね。


「……お願いってなに?」


「簡単なことだよ。ほら、僕、市場でアデルに追い返されて、傷ついたんだよね」

と、かけらも傷ついていない顔で言った。


「そうかしら?」


「だから、この後、二人でお茶してよ」


 お茶……。まあ、それくらいなら、大丈夫よね。命はとられないだろうし。


「わかったわ! じゃあ、早く取って」


 ユーリは微笑むと、近寄ってきて、両手で頭を押さえた。

 魔除けをつけた時と同じね。

 でも、どうやって取るのかしら?


 と、思ったら、ユーリの顔が私の顔に近づいてくる。


「ちょっと待って! えっと、頭のてっぺんにつけたよね? なんで、顔に近づいてくるの?」


 ユーリは、妖し気な顔で微笑んだ。


「つける時は、頭のてっぺんにキスするんだけど、取る時は、顔にキスするんだよ」


 はあ? そんな魔除けってある?


「はい、そこまで」


 声とともに、私の顔とユーリの顔の間に手がおりてきた。

 デュラン王子の手だ。


「次期公爵。いたいけなアディーを騙して、なにやってるの? どうせ、見張らせてたんでしょ?」


 デュラン王子が、ユーリを冷たい目で見る。

 見張らせてた!? あ、私、やっぱり騙されてたのね?


「部外者は邪魔しないでくれる? 婚約者同志の戯れだから」


 ユーリが嫌そうに言った。

 

 と、そこへ、ロイドと師匠が入ってきた。


「ドーラさん、だいぶん良くなってきました。……次期公爵は、何故ここに?」


 ロイドの冷たい声が響いた。

 うん、ややこしくなってきた。同じ質問のループだわ。


「そろそろ、アデルを返してもらおうと思って」


「アデル様を、あなたに返す理由がありません。王宮には私が送りますから。どうぞ、お帰りください」


 お願いだから、あおらないで、ロイド!

 ユーリも、そんな凶悪な目でにらまない!


 そして、デュラン王子と師匠、観察してないで、止めてよ!


 なんだか、部屋の温度が急降下していくよう。まるで、極寒の地ね。

 ほら、マルクが凍りついている。

 

 あ、ダニエルまで、固まり始めた。

 

 マルクは慣れているから勝手に解凍するだろうけれど、ダニエルよね! 

 魔王に免疫がないから大変。早く助けなきゃ!

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