第47話 ごめんなさい

「アデル様、ただいま戻りました」


 あ、ロイドだ!


「薬はあった?」


「はい、全て揃いました。ドーラさんに届けてきます」


 ロイドは慣れた様子で台所でコップに水を注ぎ、ドーラさんの部屋へと向かった。 


 その時、ブザーが鳴った。何の音かしら?

 と思ったら、ダニエルが素早く説明してくれた。


「玄関のベルだよ。誰か来たみたいだから、ちょっと見てくる」

 

 部屋に残ったのは、私とデュラン王子とマルクだけ。


「じゃあ、お昼の食事を邪魔しちゃ悪いし、私たちも、そろそろ帰りましょうか?」

と、デュラン王子に声をかける。


「そうだね。ドーラさんも落ち着いたしね」


「ほんと、デュー先生のおかげね。マルク、デュー先生の治療、すごかったんだから……」

と、マルクに興奮気味に語りはじめた時だった。


「なんだか、楽しそうだね?」


 背後から凍てつくような声が聞こえてきた。

 はっとして振り返ると、ダニエルの横にユーリが立っている。


 あ、今のブザー、ユーリだったんだ。

 

 じゃなくて、なんでここにいるの? なんで、ここがわかったの? 

 と、私の頭は、すっかりパニック状態。


 そんな私に、ダニエルが緊張した顔で聞いてきた。


「この人、アデル王女の婚約者だって言うんだけど。アディーって王女様なの!? デュー先生の助手のアディーじゃないの!?」


 ダニエルがなんだか泣き出しそう。 

 ドーラさんを気づかわせない為の設定だったけれど、嘘ついていたから、傷つけたのかしら? どうしよう……。


 魔王よりも、まずは、ダニエルね。

 こうなったら、言い訳せずに謝るのが一番。

 誠心誠意、謝るのみ!


「嘘ついて、ごめんなさい、ダニエル! 私、本当はアデルなの。今日だけ助手をしたけれど、本業は王女なの! 本当に本当にごめんなさいっ!」


 私は、がばっと思いっきり頭をさげた。


「……」


 ええと、えらく静かだわね。

 そろりと頭をあげてみる。


 あっけにとられているダニエル。

 そして、なんともいえない顔をしているマルク。

 今にも笑い出しそうなデュラン王子。

 魔王のほうは……、怖くて見ていない。


 みなさん、どうかしましたか?

 と、思ったら、ダニエルがぽつんと言った。


「……びっくりした」


 え?


「王女様って聞いて、なんかショックをうけたけど、今ので全部とんだ」


 ん? どういう意味かしら?


「わかる……」


 マルクがしんみりと相槌をうつ。

 本当に、どういう意味かしら?


 デュラン王子がクスッと笑って、つぶやいた。


「王女が本業って……。しかも、王女らしからぬ、あの潔い頭のさげかた、すごいよね。さすが、アディー。予想を超えてくるね」


 え、王女らしからぬ? どういうことかしら?


「王女様でも、助手でも、アデル様でも、アディーでも、ぼくが見たまんまの人なんだって思ったら、ほっとした……」


 そう言うと、ダニエルが恥ずかしそうに微笑んだ。


 天使の微笑みが戻ってきたわ!

 色々よくわからないけれど、良かった!

 許してくれてありがとう、ダニエル!


 すっかり気持ちが舞い上がった私。


「ねえ、アデル。また、なに、変なのを引き寄せてんの?」

と、ひんやりした声が響いた。


 あ、魔王のこと、忘れてたわ。




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