第43話 適材適所

 ロイドは紙をうけとると、さらっと見て言った。


「三つのうち、二つの薬は町で売っています。一つは、この国にはないのですが、同じ効能の薬がありますので、それにしましょう」


「薬のこと、とても詳しいんだね」


 デュラン王子が驚いたように言った。


「ええ。薬師の資格を持っております」


 え、それ初耳なんだけど……?


「騎士なのに、珍しいね。薬学に興味があるんだ?」

と、デュラン王子。


「いえ、まったく。いずれ、アデル様の騎士となり、アデル様の健康をお守りするために、知っていて損はないかと思い、学んだだけです」


 え、そんな理由……?


「なんか、君って、本当にぶれないねぇ……」


 しみじみと、デュラン王子がつぶやいた。


「ロイ坊、重すぎるぞ……」


 師匠の顔はひきつっている。


「ロイちゃんは、がんばりやさんだもんね。こうと決めたら、貫き通すところもかわってないわ。えらいね」

と、おだやかに微笑むドーラさん。


 はにかむ、ロイド。


 一瞬にして、微妙だった空気が浄化されてしまった。

 ドーラさん、もしや、あなたは聖女様ですか!?


 そんな聖女のため、ロイドは、すぐさま、薬を調達しに出かけて行った。

 そして、私たちは、ドーラさんにゆっくり休んでもらうため、部屋をでる。


 廊下にダニエルが立っていた。


「大丈夫だ。ドーラさんは風邪だったよ。数日、休んでれば治るからな。今、ロイ坊が薬を買いに行ってくれた。呼びに来てくれて、ありがとな」


 師匠の言葉に、ダニエルの顔がぱあーっと明るくなった。


「ところで、もう昼だが、今日の子どもたちのご飯はどうする? 俺が、何か買ってこようか?」


 師匠が、ダニエルにたずねた。


 あら、もう、そんな時間?


「ぼくが作ります。普段、ドーラさんを手伝っているので、大丈夫。それより、ドーラさんには、何を食べてもらったらいいんだろう。病気なのに……」


「はい、はい、はい! 私、手伝うわ」


「アディー、料理できるの?」


 デュラン王子が不思議そうに言った。


 いいえ、今世ではしたことがないわね。

 ただ、前世は庶民だったから、自分のご飯を作っていたはず。

 料理をした記憶は、まったく思い出せないけれど……。


 でも、きっと、いざ料理を始めると、体が勝手に動くんじゃないかしら?

 

 なんて、正直に言うわけにもいかない。そうだ!


「ほら、私、本が好きでしょ。物語でもいろんな料理がでてくるじゃない? アイデアなら出せると思う。それに、なんとなく、私、料理に隠れた才能があるような気がするのよね」


「……そうだね?」


 デュラン王子が、あいまいな笑みをうかべた。


「つまり、ド素人ってことか」

と、師匠が言った。


 ちょっと、簡単にまとめないで!


「でも、材料をみて、何かアイデアがあったら教えてくれるだけでも嬉しい。ぼくが全部作るから」


 ダニエル……、なんていい子なのかしら!

 あ、子じゃなかった。私とたったひとつ違いなのよね。


「じゃあ、よろしく、ダニエル! あ、私はアディーね」


「うん、わかった。アディー」


 台所に行く前に、いったん、みんなで居間に戻った。

 

 あ、マルク。すっかり忘れていたわ。


 でも、どうしたのかしら。

 マルクのまわりに子どもたちが集まって、お行儀よくすわっている。


「みんな、ちゃんとおとなしくしてた?」

と、ダニエルが聞くと、子どもたちがいっせいに声をあげた。


「うん、おにいちゃんに、おはなしをしてもらってた!」


「すごい、おもしろいんだよ!」


「おひめさまや、おうじさまもでてくるの」


 マルクを見ると、恥ずかしそうに言った。


「ほら、小さい頃、ぼくたちが、一番好きだった絵本あったでしょ?」


「あ、最初にマルクと出会った時、持っていた絵本のこと? あれが、きっかけで仲良くなったんだもんね」


「そうそう。あの絵本なら、数えきれないくらい読んだから、一字一句覚えてる」


 マルクの言葉に、私はうんうんとうなずいた。だって、私も同じだもの。


「だから、その絵本のお話をしてたんだ」


 さすが、私の親友! 本を愛する仲間だわ!


 では、ご飯ができるまで、子どもたちを頼んだ。

 私は料理をがんばるわ!


 まさに適材適所ね。

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