第41話 失礼しました

 デュラン王子の手のひらから、青白い光がではじめた。

 細い線のような光が、ドーラさんの胸の中心に差し込んでいく。


 これって、魔力かしら? でも、魔力って見えるものなの!?


 なんて、思っている間にも、光の線は、どんどん太くなり、あっという間に、手のひら全体から光がではじめた。


 デュラン王子の手のひらと、ドーラさんがしっかりと光でつながっている状態。

 ドーラさんは、驚いている様子だけれど、痛がったり、気持ち悪がったりはしていないみたい。


 青白い光が輝いて、とっても神秘的……。

 美しくって、思わず、見入ってしまった私。


 しばらく、その状態が続いた後、だんだん、光が細くなってきた。

 そして、ついに、すーっとデュラン王子の手のひらにすいこまれて、消えていった。


 デュラン王子は目を閉じたまま、立ちあがって、後ろをむく。


「ドーラさん、終わったから、寝間着を着てね。アディー、手伝ってあげて」


「はい! デュー先生!」


 思わず声が裏返ってしまったわ。

 だって、ドキドキがとまらないもの。なんだか、すごいものを見たのではないかしら。


 ドーラさんは少し楽になった様子で、脱ぐ時とは違って、私が手伝う必要もなく、すんなりと自分で着ることができた。


「ドーラさん、着ましたよ。デュー先生!」


 興奮しているので、また、声が裏返ってしまったわ。

 二度目は、ちょっと恥ずかしい。でも、仕方がないわよね。


 だって、光のことが気になって仕方がないんだもの!

 

 デュラン王子はふりむいて、私を見るなり、微笑みながら言った。


「今から説明するよ、かわいい助手さん。そうだ、部屋の前にいる人も呼んできて」


 え? 部屋の前? 誰かいたっけ?


 ドアを開けると、師匠が転がり込んできた。


 あれから、ずっと、はりついていたのね。

 師匠ったら、そんなにドーラさんのことが、……ムフフフフ。


 じゃなくって、そんなことより、早く説明をお願い!


「ドーラさんは風邪だ。体調が悪いのに無理をしていたんじゃないかな。体が弱ってる。熱が高かったけれど、魔力で診ながら、余分な熱を吸い取ったから、楽になったと思う。でも、念のため、あと数日はゆっくり休んでね」


 え? 熱を吸い取った? あの光が?


「ええ、おっしゃるとおり、ちょっと無理をしてしまって……。でも、随分、楽になりました。ありがとうございます、先生」

と、ドーラさんが、かすれた声で言った。


「良かった……」


 師匠のほうが、泣きそうな顔をしている。


 それで、それで? 早く、あの光について教えてよ!


 私の顔を見た、デュラン王子が私の頭をなでだ。


「本当にぼくの助手は、かわいいね」

と、とろけるように、笑いかけてきた。


 それはどうでもいいですから、早く説明を! ほら、ほら!


 師匠が、うっ……!と、うなった。


「男の俺でも動揺するほど甘ったるい攻撃を、お姫さん、あんた、よく無視できるな?」


「そう、手ごわいんだよね。まあ、それもおもしろいんだけどね」

と、デュラン王子。


「そんなことより、早く説明を!」


 あ、思わず、声にでた。しかも、声が大きすぎたわね。

 病人の前で私ったら。ごめんなさい、ドーラさん……。


「ふふっ。本当にかわいらしい助手さんですね」


 ドーラさんが、優しく微笑んでくれた。

 なんて、いい人。師匠が好きになるのもわかるわ。


「さっき見せたように、手のひらからでた青白い光が僕の魔力だ。相手の体の中へ入れば、体の中の状態を診ることができる。だから、魔力を生かすために、治療師の資格も取ったんだよ。じゃないと、状態がみえても、意味がわからないからね」


「じゃあ、さっきの熱を吸いとったっていうのは? もしかして、病を治すこともできるの?」


 私の問いに、デュラン王子は首を横にふった。


「いや、残念ながら、僕の魔力だけで治したりはできない。でも、簡単な癒しならできる。ドーラさんの場合、症状としては熱だけだったから、余分な熱を吸い取った。でも、熱を下げただけだから、ちゃんと薬を飲んで、栄養とって、休まないとね。まあ、僕の魔力で、できることはそれくらいかな」


 それくらいって、すごいわよ!


 この世界には、魔力を持っている人はある程度いる。が、あっても使えない人も多い。

 私も、魔力はあるにはあるけれど、使い道がわからないのよね。

 

 デュラン王子のように、魔力を役立てることができる人になると、ほんの一握り。

 

 ちなみに、ユーリは滅多にいないほど魔力量が膨大だから、本人さえ、その気になれば、名実ともに魔力で国を支配し、魔王になれると思う。


 それにしても、デュラン王子はいい人だったのね。

 ずっとユーリと同類の魔王だと思っていたけれど、違っていたんだわ。

 

 まさに、癒しの王子。 

 失礼しました、デュー先生!


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