第40話 助手です

 さっき、師匠を呼びに来た男の子が、私たちをドーラさんの部屋へと案内してくれた。

 ここでは、一番大きく見える男の子だけれど、私より少し背が低い。


 私は14歳だけれど、平均より低いから、……10歳くらいかしらね。

 小さい男の子なのに、しっかりしてるわ。

 なんてことを考えながら、後ろを歩いていたら、男の子が、きっ! と私のほうへ振り返った。


「ぼく、13歳だから! それに、背はこれから伸びるから! そして、小さい男の子じゃなくて、名前はダニエル」


 ええっ!? もしかして、心の声が、またでてしまってた!?

 思わず、デュラン王子を見ると、笑いをこらえながら、うなずいた。


「あ、ほんと、ごめんなさい。年はひとつしか、かわらないのね。ええと、これまた、ごめんなさい……。そして、ダニエルなのね。わかった。忘れないわ!」

と、あわてて謝ったところで、部屋の前についた。


 ダニエルが扉をノックをすると、師匠がでてきた。


「デューさんが、魔力で体の悪いところを診られるんですって」


 私の言葉に、師匠がほっとした顔をする。


「そりゃあ、ありがたい! すぐ診てやってくれ」


 そう言って、私たちを招き入れた。


 簡素なベッドに、一人の女性が寝ている。

 こちらを見て、急いで、起き上がろうとした。


「あ、そのままでいいですよ。僕は魔力で診察ができるデューと言います。他国ですが、治療師の資格も持ってますから、安心してください。そして、こちらは助手のアディーです」


 そう言って、デュラン王子が私を手で示した。


 なるほど、私たち、見知らぬ人だものね。まずは、病人に安心させないとね。

 まかせて! 立派に助手になりきってみせるから!


「助手のアディーです。よろしくお願いします」


 私は、にっこりと微笑んだ。


「ああ、そうだ。師匠、部屋から出ててね」


 デュラン王子の言葉に、うろうろしていた師匠が、なんで? という顔をした。


 あ、ここは、助手の初仕事ね! 

 私は、師匠に声をかけた。


「師匠は、ドーラさんのご主人なんですか?」


「え?」


 一瞬間があって、すごい勢いで首を横にふった。


「いやいやいやいや、違う、違う、違う! とんでもない! ……あっ、いや、嫌ってわけじゃなくて、俺みたいな奴に、ドーラさんはもったいないっていうか……」


 なにこれ、おもしろいわね……。

 そして、師匠。顔が真っ赤ですよ。

 ふっふーん、なるほど、そういうことね! って、楽しんでる場合じゃないわ。


「じゃあ、他人ということね! すぐに、部屋からでてください。デュー先生の指示ですから!」


 そう言って、動揺しまくっている師匠を、部屋の外へと追い出した。

 

 さあ、次は何をすればいいかしら、デュー先生!

 やる気がみなぎっている私は、後ろで待機してるからね。


 ドーラさんは、ベッドで、ゆっくりと上半身をおこした。


 私の母くらいの年齢かしら?

 優しそうで、きれいな人ね。でも、顔が真っ赤で、苦しそう……。


 いつもと違って、甘い雰囲気は封印し、真面目な顔つきのデュラン王子。


「ドーラさん、口をあけて」「頭は痛い?」「せきは?」などなど、次々と質問をしていく。


「じゃあ、今から魔力で診るよ。……ちょっと、アディー、ここへ来て」


 やっと出番だわ!


「はいっ!」


 張り切りすぎて、すごい大きい返事になった。


「クッ……いい返事。これから、僕は目をつぶる。だから、助手のアディーは、僕の言う通りにしてね」


 デュラン王子はそう言うと、目を閉じて、少しうつむいた。


「わかったわ。何をすればいいの?」


「まずは、ドーラさんと僕との間に立って」


 言われた通りに移動する。


「立ったわ」


「じゃあ、ドーラさん。申し訳ないが、服越しだとわかりにくいので、寝間着の上をぬいで、上半身は裸になってくれるかな? 僕は目をつぶっておくので、アディー、手伝ってあげて」


「まかせて!」


 ドーラさんは体がつらそうなので、ボタンをはずすのを手伝った。


「ぬげたわ」


「じゃあ、僕の左手をアディーが持ってくれる?」


「デューさんの手を?」


「そうだよ、ほら」


 そう言って、伸ばしてきた左手を言われるがままに持つ。


「次は、僕の手を彼女の胸の真ん中あたりに持っていって。触らない程度に近づけてね」


 まったく意味がわからないけれど、言われたとおりにする。


「持ってったよ」


「うん、ありがとう。じゃあ、ドーラさん。はじめます」


 そう言うと、デュラン王子は彼女の胸の真ん中あたりにむけて、手のひらを開いた。


 一体、何がはじまるの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る