第39話 なにしてるの?

 男の子と師匠は、先に走りだす。

 よし、私もついていくわ! と思ったら、誰かが私の前にしゃがみこんだ。


 なんだか、見慣れた背中ね。

 ……じゃなくて、


「ちょっと、ロイド! なにしてるの!?」


「さあ、アデル様。乗ってください。ほら、早く。どうぞ!」


 色々とよくわからないんだけれど?


「ロイドは、さっき帰ったのじゃなかったの?」


「いえ、仕事がキャンセルになりましたので、私は休暇をとりました。ということで、今、ここにいるのは、王太子専属護衛騎士ではなく、ただのロイドです」


 ええっと……、ロイドはそれでいいのかしら?

 とりあえず、もうひとつの疑問。


「乗るって、どこに?」


「もちろん、私の背中です。孤児院まで、私がアデル様をおんぶしますから」


「え? おんぶ? この年で、恥ずかしいんだけれど!?」


「しかし、アデル様はお小さいので、歩幅も小さくて、前に進みにくいというか……」


 まあ、要は足が遅いってことね! 悲しいことに事実だわ。


「ククッ……、乗ってみたらいいんじゃない?」


 デュラン王子が、笑いながら言った。

 おもしろがってるわね!


「今まで、何度、アデル様をおんぶしたと思ってるのですか? さあ、安心して、乗ってください!」


 ちょっと、それって、小さい頃の話でしょ?


「でも、早く行ったほうがいいから、乗ったら? 確かに、アデルって、めちゃくちゃ足が遅いし」


 マルク……、やっとしゃべったと思ったら、率直すぎてびっくりだわ。

 そして、私って、そこまで足が遅いのね。うん、そちらもびっくり。


 が、確かにそうね! 恥ずかしいなんて言ってられないわ。


「じゃあ、乗るわね、ロイド!」


 そう宣言して、広い背中に乗った。

 うん、普通に恥ずかしいわね。まわりの人たちの視線も痛いし。


 デュラン王子、我慢しなくても、どうぞ、存分に笑って?


 ロイドのおんぶで、あっという間に、孤児院に到着。

 安定した乗り心地で、速かったわ。さすが、ロイドね……。

 

「さあ、こっちです!」


 ロイドは、とまどうことなく、ドアをあけて、建物の中へ入っていく。


「ロイドは、ここへ来たことがあるの?」


「ええ。師匠が、ここの子どもたちを教えていますから。私も様子を見に、時々来ますよ。ドーラさんのこともよく知っています」


 居間のような部屋に入ると、10人くらいの子どもたちがいた。

 ロイドを見るなり、「ロイ兄ちゃん!」と、口々に言いながら、子どもたちが群がってくる。


 そして、その中で、一番大きいと思われる、さっき師匠を呼びに来た男の子が、ロイドに言った。


「ドーラさんが具合が悪くなって。今、師匠が部屋に見に行ってる」


「ここの近くだと……治療師のヤンさんがいたな。診てもらったのか?」


 ロイドが聞くと、男の子は首を横にふった。


「呼びに行ったけど、留守だった。ねえ、どうしよう。ロイ兄ちゃん!」


「大丈夫だ。ドーラさんを治療院に連れて行く。馬車を手配するから、待っててくれ」


 ロイドは安心させるように、男の子に優しく言った。


「その前に、僕が診てみよう」

と、デュラン王子。


 デュラン王子は、子どもたちの目線にあわせて、姿勢を低くした。


「僕はね、魔力で体の悪いところを診ることができるんだよ。だから、ドーラさんを診てくる。安心して」


 え、魔力でそんなことができるの? 

 さすが、魔王! しかも、なんて、役立つ魔王なの!


「ということで、アディーも一緒にきてね。女の子がいたほうが、手伝ってもらいやすいから」


 はい、デュー先生! 了解です!



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