第38話 移動します

 ということで、結局、ユーリとロイドには帰ってもらった。

 そして、新たに案内係兼護衛となった師匠。


「じゃあ、おれの住んでいる下町はどうだ? 見たことがないだろう? あ、高貴な方々だと、俺だけじゃあ、護衛が足りんか?」


「それなら大丈夫よ。ロイドがぬかりなく手配しているから」


 精鋭の騎士たちが、少し離れたところで見守っているのが見える。


 何度も言うようだけれど、ロイドは仕事はできる。

 ただ、私が絡むと、過保護すぎて、ちょっと……というか、かなり変になるだけ。


「まあ、そこの男前さんは、俺より強そうだしな。かなり、やれるんだろう?」


 そう言いながら、デュラン王子の全身を確かめるように見た師匠。


「まあ、一応はね。アデル王女はぼくが守るよ。安心して」

と、甘いウインクをしてきた。


 ギャラリーの女性が思わずよろめいた。

 さすが、魔王。

 そのウインクなら敵を倒せるわね! すごい威力だもの。


「じゃあ、俺はマル坊を守るとするか。いいか、マル坊?」


「よろしくお願いします、師匠」

 

 嬉しそうに、そう言ったマルク。すっかり、懐いているわ。

 甘いもの好きの連帯感がすごいわね。


 師匠の案内のもと、市場をでて、細い路地を入っていく。

 道は、くねくねと曲がっていて、迷路みたい。迷子になったら、帰れないわね……。


 そこで、エプロンをした、人の良さそうな女の人とすれ違った。


「あら、師匠? 今日は、派手な人たちを連れてるね。脅して連れてきたのかい?」


「いやあ、どっちかっていうと、俺のほうが捕まったかな?」


「何言ってんだい。師匠を捕まえてもいいことないだろう。あんたたち、気をつけなね。お金、だましとられないように」

と、ケラケラ笑いながら、立ち去って行った。


 え? もしや、師匠って危険人物なの?

 私、危ない人に、案内係を頼んでしまったのかしら!?


 思わず、後ずさる私。


「冗談にきまってんだろ。ロイ坊の師匠だぞ。あのくそ真面目が、そんな奴を信用するか?」

 師匠があきれた顔をして、私を見た。


「確かに、そうね……。でも、なかなか、判断が難しい冗談だったわよね。だって、そう言われれば、そうかなって思えたもの。ごめんなさい師匠」


「それ、謝ってないだろう?」

と、不満げな顔をする師匠。


「そうだよ、アデル。師匠はそんなことするように見えないよ」

と、マルクが私に注意してきた。


「さすが、マル坊。甘いものが好きなだけあって見る目があるな」


「ありがとうございます、師匠。甘いもの好きには自信があります」

と、にこにこしながら答えるマルク。


 なんだか、おかしな会話よね……。

 ちなみに、私も甘いものは大好きなんだけれど、この仲間には混ざりたくないわね。


 細い道をぬけ、私たちは広場にでた。

 小さなお店がひしめきあっていて、にぎやかだ。


 そこへ、猛スピードで走ってくる男の子が見えた。


 一体、どうしたのかしら?


 すごいスピードのまま、こっちへ向かってくる。

 え? 私のほうへ走ってきてるの!?


 このままだとぶつかりそう、と気持ちは焦るのに、どっちへよけていいかわからない!


 体が動かない! ぶつかるー! と思ったら、さっと体が浮いた。

 デュラン王子が私を持ち上げて、横へよけてくれた。


 同時に、師匠は一歩前へでて、その男の子を受けとめている。


 ああー、びっくりしたわ!

 私、こう見えて、運動神経は皆無なの……。


「ありがとう……。デュラン王子」


「いえいえ、アディーのことは、ぼくが守るって言ったでしょ」


「その呼び方、復活するの?」


「ここは下町だから、デューさんって呼んで。うるさいのもいないしね」


 うるさいのって、……あ、ロイドね。

 確かに、ここで、デュラン王子って呼んだら、まわりの人たちがびっくりするわよね。


「わかったわ、デューさん。助けてくれてありがとう」


「どういたしまして、アディー」

と、語尾にハートがつきそうな甘さで微笑まれた。


 その時、師匠が受けとめた男の子が、息もきれぎれに叫んだ。


「師匠、早く来て! ドーラさんが大変なんだ!」


「ドーラさんが!?」


 師匠の顔色が変わった。そして、私たちの方を見て、説明する。


「この子は、俺の弟子で、近くの孤児院の子どもだ。ドーラさんは、そこでお世話をしている女性だ。悪いが、様子を見てくる。あんたたちは、どうする?」


「私も行く!」


 考えるよりも先に答えていた。


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