第37話 帰ってください

 なんだか、だんだん、腹が立ってきたわ!

 せっかく町へ来たのに、なんなの、この二人は!


「ちょっと、ユーリもロイドも! けんかするなら、二人とも帰って!」


「あ、それ、いいね!」


 すぐさま言った、デュラン王子。


「私は案内がありますから、次期公爵がお帰りください」

と、ロイド。


「じゃあ、アデルも連れて帰るから。君たちだけで町をまわってよ」

と、ユーリが答える。


 二人の目線は、バチバチと音がしそう。ほんと、しつこいわね!


 仕方がないわ……。


「ユーリもロイドも帰ってちょうだい。かわりに、師匠を案内係兼護衛に任命します!」


「え? おれ?」


 笑っていた師匠がびっくりしている。

 ここにいたのが、運命よ。あきらめて!


 そして、ロイド……。なんて顔してるの?


 おいていかれる子犬みたい。垂れた耳が見えるわ。

 そんな顔されたら、……って、ダメダメ!


 ここでびしっとしないと、この二人はとまらないもの。


「うん、それがいいね。師匠、よろしく」

と、デュラン王子が上機嫌で言った。


「じゃあ、ぼくも、……そろそろ帰ろうかな……」


 小さな声で、マルクが言った。


 こら、親友! 逃がさないわよ!


 マルクは、そうね……、あ、ひらめいた!


「マルクは、おやつ係に任命します」


「なんか、かわいい係だね」


 デュラン王子が楽しそうに笑うと、甘い雰囲気がひろがった。

 まわりの女性たちから、きゃあと声があがる。


 あ、まだ、ギャラリーがいたのね? すっかり忘れていたわ。


 なんか、町の人たちに、王女らしからぬ姿を見せてしまっているけれど、しょうがない。非常事態だもの。


 これから、王女らしさを存分に披露して、挽回してみせるわ!

 私は精一杯、王女っぽさをかきあつめて宣言した。


「では、そういうことで。ユーリとロイドは、ここでさよならよ!」


 言った! 言いきったわ! 魔王相手にがんばったわ!

 そう、やればできるの、私ってば!


「ふーん。早朝から仕事を片づけて、駆け付けた婚約者にひどい仕打ちだね。アデル」


 ユーリは、ロイドが止める間もなく、さっと近づいてきて、両手で私の頭をおさえた。


 え? なに、なに、なに? 私、頭をつぶされるのっ!?

 と、思ったら、私の頭のてっぺんにユーリが唇を押し当ててきた……。


 はああああ!?


 まわりのギャラリーから、「ぎゃーっ!」と悲鳴があがる。


「ちょ、ちょ、ちょっと、な、なななな、なにするのよっー!?」


「魔除けかな?」


 魔王が魔除け? それって、おかしくないですか!?

 っていうか、恥ずかしすぎて、死にそうなんですが……。


 真っ赤になっている私に、ユーリは妖しい笑みを浮かべて言った。


「アデルのお望みどおり、今日は別行動にしてあげる」


 へ?

 全くユーリの意図が見えない。見えなさすぎて怖い。


 でも、よしとしよう。

 私の乙女心を犠牲に、今日の平和がもたらされたんだものね……。

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