第35話 魔王化?

「ところで、ロイ坊と高貴な皆さんは、この市場で何をしてるんだ?」

と、師匠がたずねてきた。


「第二王子殿下に、この町を見ていただくべく、ご案内しているところです」

と、ロイドがきっちりと答える。


「それで、市場以外にはどこへ行った?」


「いえ、ここが初めてです」


「じゃあ、次はどこへ行く予定なんだ?」


「町の教会に、お連れしようかと考えております」


「ふーん。まあ、ロイ坊らしい真面目なルートだが、つまらんな」


 あー、ロイド、あの教会に連れて行くつもりなのね。

 確かに歴史のある教会だけれど、私的には、うーん……。


 だって、毎月、行ってるんだもの。王女の役割として。

 しかも、今週も行く予定よ。なので、他の場所がいいなあ。

 

「そうだわ。師匠が、この町で一番おすすめの場所はどこですか?」


「一番のお気に入りは、もちろん……、おっと、お姫さんには言えねえな」

と、意味ありげに笑った師匠。


「え、なんで?」


「うーん、そうだなあ。男のロマンが……」

と言いかけたところで、ロイドの手刀が師匠の頭におちた。


 うん、なんだかすごい音だけど、大丈夫かしら?


「い……いってえな! 師匠になんてことするんだ! 加減しろよ、この馬鹿力!」


 師匠が頭をおさえて、ロイドをにらむ。


「師匠でも関係ありませんよ。アデル王女様のお耳を汚すようなら、叩き潰すのみ」


 ロイドが凍りつくような冷たい目で師匠をにらみ返す。


 ちょっと、ロイド。何、物騒なことを言ってるの?


 一気に、ここらへんが寒くなったわよ。

 なんだか、あなたの天敵のだれかさんにそっくり。


 でも、二人は似ていないのに不思議。

 

 あ、もしかして……。

 私、とんでもない秘密に気づいてしまったかも!


 もしや、魔王って、うつるんじゃない?

 魔王に接すると、どんどん魔王化していくとか……。


 だって、ここにいるものね、本物の魔王が! 

 もちろん、デュラン王子。


 マルクと私は、ユーリで耐性がついているから、うつらない。

 ロイドはすでに魔王化の兆しが見えてるから、どうにもならない。


 ということは、あと危ないのは、師匠だけ。

 うつる前に逃げて!


 と、私の想像がひろがっているところを、師匠の声で引き戻された。


「ほんと、ロイ坊は、相変わらず、お姫さんのこととなると容赦ないな」


 相変わらず? どういう意味かしら?


 私の顔を見て、疑問を察した師匠が説明しはじめた。


「ロイ坊は、一度、怒り狂ったことがあってな。あの時は、ガキたちが泣き喚いて、まさに地獄だったな……」

と、師匠は遠い目でどこかを見た。


 ええ? このロイドが怒り狂う? 想像がつかないんだけれど?


「何があったんですか?」


 きっと、よっぽどのことよね?


「それが、お姫さんの悪口を言われたからだとよ」


 なんですって! 私の悪口!?

 クールなロイドが怒り狂うほどの私の悪口って、一体、なにかしら? 

 恐ろしいわね……。

 

 聞きたくないけれど、気になる。

 よし、覚悟を決めて聞いてみよう!


「なんて言ったのかしら……?」


「ちび、だったかな」


「それから?」


「それだけだ」


「えー!! それって、悪口じゃなく、事実じゃない!」


 思わず、自分で即答してしまった。悲しい……。


「とんでもない。アデル様はお小さいですが、ちびではありません! 今、聞いても、怒りがわいてきます!」


 ロイドが厳しい口調で言った。


 ん? また、なにかロイドが変なことを言ってるわね?


「ブッ……。お姫さんが関わると、くそ真面目なロイ坊が、とたんに、おもしろくなるな」


 師匠が笑いだす。


「アディーはアディーだ。どんなサイズでもかわいいよ」


 すかさず、デュラン王子が甘ったるい笑みとともに、わけのわからないフォローをいれてきた。


「アデル、これ食べる? 気持ちが満たされたら、大きくなった気がするよ」

と、甘いものを差し出してくるマルク。


 いえ、さっきももらったから、さすがにいいわ。

 ……っていうか、マルク、食べ過ぎよ!


 身長のことは、全く気にしていないのに、不思議ね。

 みんなが、何か言えば言うほど、もやもやしてくるのだけれど……。


 ということで、背のことは、もう、放っておいて!


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