第33話 師匠あらわる

 また、歩き始めると、今度は、道具を売っているお店のエリアに入った。

 そこで、お店からでてきた中年の男性が、私のほうを見て言った。


「ロイ坊じゃないか?」


 ロイボウ? ロイボウってなに?

 男性の目線を追うと、私の真後ろ。……あ、ロイドのこと?


「ご無沙汰しております、師匠」


 ロイドは、私の前に踏み出すと、そう言って、きっちりとお辞儀をした。


「あいかわらず、くそ真面目だな、おい」


 口が悪いわね。

 ロイドとは真逆のタイプみたい。なんの師匠なのかしら?


 と、師匠と目があった。


「おっ、そちらのきれいなお嬢さんは?」


 口は悪いけど、いい人みたいね。


「こちらは、私のお仕えする主、アデル王女様です」


 いやいや、あなたの主はルイ兄様でしょ。王太子専属護衛騎士さん。


「俺はそういうのに疎くて……。失礼しました」


「あ、いえいえ、私のことは気にせず。それに、ロイドの師匠なら、私にとっても師匠みたいなもんですから、どうぞ、普通に話してくださいね、師匠!」

と、にっこり微笑んだ私。


 驚いたように私を見た師匠。笑いをこらえるように言った。


「じゃあ、お言葉に甘えて……。かしこまるのは慣れてないもんで助かる」


 それから、ロイドに顔を向けて、にやりと笑った師匠。


「このかたが、おまえのお姫さんか……なるほどな。念願叶って、お傍にいるんだな」


「念願、叶うって?」


 私は思わず、口をはさんだ。


「黙ってください、師匠」


 ロイドが珍しく、焦った様子で言った。


 お、顔が赤くなってる!

 なんか、かわいい! ほんと、ずるいな、きらきらした人種は。


 こうなったら、意地でも聞いてやるわ!


「教えてください、師匠!!」


 おっと、前のめりになってしまった。

 まあ、なんの師匠かも知らないけれど……。


 師匠がブフッと噴出した。


「なんというか、おもしろいお姫さんだな」


 あら、何か漏れだしてましたか?


「そう、そこがアディーの素敵なところなんです」

と、デュラン王子。


「これまた、えらい男前さんだが、お姫さんの噂の婚約者さんかい?」


「全く違いますよ。こちらは、ブルージュ国の第二王子殿下です」


 きっぱりと、ロイドが訂正する。


「今はね。でも、この先は、わからないよね?」

と、デュラン王子が甘やかに私に微笑みかけてきた。


 お願いだから、魔王から魔王への変更はやめて。


「いえ、それは、あり得ません。まあ、今の婚約者も、いずれアデル王女様にふさわしい、素晴らしい方に変わるでしょうが」


 ロイド……。ユーリが聞いたら、氷漬けにされるわよ。


 ほら、マルクを見て。

 急いで、耳をふさいでいるわ。

 聞かなかったことにするつもりね。


 わかるわ……。

 聞いてしまったら同罪、みたいなこと、言いそうだものね、あの魔王は。


「なんか、お姫さんも色々大変そうだな」


 師匠が気の毒そうな目で私を見た。


 そうなんです! 

 こう見えて、色々大変なんです。魔王とか、魔王とか、魔王とか……。


 しかし、服装からして、師匠は町の人。

 貴族のロイドとは、どうやって知りあったのかしら?


「ロイドとは、いつからお知り合いなんですか?」

と、聞いてみる。


「確か、今のお姫さんよりも、もうちょい小さい頃だったか。ちょうど、この市場の近くで、俺が荒くれどもに説教していた時にロイ坊が通りかかってな」


「いえ、説教ではなく、全員、倒してましたよね。師匠」


 ロイドが淡々と訂正する。


「言っても聞かん奴らだったからなあ。おとなしくさせて、その後、説教したんだっけな? まあ、とにかく、そこへ、ロイ坊が飛びだしてきて、弟子にしてくださいって、頼んできたんだ」


「では、そのくらいで師匠。さようなら」

と、いきなり、話をぶちぎりにして、私を連れて立ち去ろうとするロイド。


 こらこら、話はここからでしょ!


 あわてるロイドに興味をひかれた様子のデュラン王子。


「で、そのあとは、どうなったんですか?」

と、師匠に続きを促した。


「断ったよ。いかにも、貴族のなまっちろくて、ひょろっとしたガキだったし、面倒だなって。が、こいつは本当にしつこかった。毎日、毎日、やってくるんだ」


「それで、師匠はロイドの熱意にうたれて、弟子にしたわけね」


 うんうん、なんか、良い話! 感動したわ!


「いえ、私の持っていく手土産の菓子につられたんですよね、師匠」

と、これまた冷静に訂正をいれるロイド。


「ははは、まあな。俺は甘いもんに目がなくてな……」


 え? 食べ物につられたの?

 ちょっと、感動を返して、師匠!

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