第32話 どこへむかってるの?

「アディーが喜んでくれて、良かった」

と、甘く微笑むデュラン王子。


「アディーではなく、アデル様です」


 すかさず、ロイドが口をはさんだ。


「うん、知ってる。でも、もう、アディーとデューって呼びあう仲なんだ」

と、デュラン王子がロイドに言った。


「では、私のことは、ロディーとお呼びください。その呼びあう仲に割りこませていただきます」


 ロイドは淡々とした口調で、デュラン王子に宣言した。


 ちょっと、ロイド、大丈夫? なんだか、すごーく変なこと言ってるわよ?

 しかも、真顔で怖いし……。


 デュラン王子も驚いた表情を浮かべた。


「いや……、遠慮しておくよ。ええっと、アディーとだけで、いいかな?」


「いえ、それはこちらがご遠慮させていただきます」


 ロイドが即答した。


 ええっと? ますます、意味がわからなくなってきたんだけど。

 この会話、どこへむかってるの?


 デュラン王子もとまどいながらも、ロイドと話を続ける。


「それは君が決めることじゃないよね? 呼びあう仲は続けるよ」


「では、私のことはロディーと。そして、そこのマルクをマルティーとお呼びください」


「ひっ!」


 マルクが変な声をあげて、飛びあがった。


 すごいわね、ロイド。巻き込み方が飛び道具みたいだったわ。

 いきなりすぎて、ほんと、びっくりした。


 マルクがおびえた顔で、ロイドを見ている。


 そう、敵は魔王たちばかりじゃないのよ。 

 意外な伏兵がでてくるから、お菓子ばっかり食べて油断してちゃダメ!


 でも、やっぱり、マルクはマルティーよね。うん、私と同じ考えだ。


「それは……、やめておこうかな」


 デュラン王子が困ったように言った。


 うん、気持ち、わかるわ……。

 だって、会話の意味が行方不明だものね。

 どう答えたら、どこへ転ぶのか、見当もつかないものね。


 さあ、ロイド、次はあなたの番。

 どう答えるの?


「では、呼びあう仲も解散ということで」


 なるほど、解散ね……、じゃなくて、なんだったの、この変な会話は!?


「なので、アデル様もデュラン王子とお呼びください」


 黙り込んだ私たちを見て、ロイドは満足そうにうなずいた。


 いや、納得したからじゃないからね。

 よくわからない展開に、みんな、唖然としているだけだから。


 確か、ロイドは国のトップの大学を主席で卒業したと聞いたんだけれど、国語を勉強しなおしたほうがいいかもしれないわね。

 なにか、文章力がつく本をプレゼントしなきゃ。


 あら? ロイドのデュラン王子を見る目が、いつの間にか、よく知っている目に変わってしまってるわ。

 そう、あの目はユーリを見る目と同じ。


 ついに、デュラン王子をユーリと同類とみなしたのね。

 やっぱり、わかるわよね。天敵だもの。


 今日、大丈夫かしら。ますます、ややこしくなりそうなんだけど。


 でも、まあ、どうでもいいわね。

 

 だって、私は今、バラの香りに包まれて、ゆったりとした気持ちなの。

 面倒なことを考えるのは手放そう。もう、勝手にしてね……。


 と、バラの花束に顔をうずめ、香りをかいでいると、いきなり、バラが顔の前から消えた。

 ロイドに花束を取り上げられたからだ。


「ちょっと、何するの? ロイド!」


「アデル様、これは回収しますね」


 こんな美しい花束を回収って何? 言い方、考えて!

 と、文句を言おうとして、ロイドをにらんだ。


 うっ……!


 なんで、バラの花束を持つと、そんなに絵になるのよー!


 私なんて、似合う以前に、こんな大きな花束を持つと埋もれてしまうのに、バラに向かって、回収なんて言うほど、情緒がないロイドのほうが似合うなんて、ひどい!


 がくっときた私は、

「じゃあ、私の部屋に飾っといて……」

と、力なく頼む。


「手配済みです」

と、ロイドは答えながら、既に部下に花束を託していた。


 そう、文章力は問題ありだけれど、仕事はできるし、バラの花束は似合うロイド。

 ギャップがありまくりよね。

 まあ、それが魅力になるかどうかは別問題だけれど……。

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