第31話 甘い香り

 お菓子を食べ終わり、市場の中を歩きだした私たち。


 しかし、やっぱり、デュラン王子は目立つわよね。

 歩いていると、あちこちから、「きゃっ!」みたいな声が聞こえてくる。


 そんな声を聞いているうちに、やっと、デュラン王子が正気を取り戻したみたい。

 いつものように、まわりの女性たちにむかって、甘い笑顔を振りまき始めた。


 黄色い声を聞きながら、進んでいくと、お花屋さんが目立つようになってきた。


「お花屋さんが多いわね」

と、つぶやいた私。


「この市場はエリアによって、お店の種類がだいたい決まっています。ここは、花と植物のお店が並ぶエリアです」


 真後ろから説明が聞こえてきた。

 もちろん、ロイドの声。


 ちなみに、ロイドは私の背後にぴっちりと張り付いている。

 警護とはいえ、そんなにひっつかなくても。

 なんというか、自分に甲羅ができたみたいで背中がうっとうしいのよね……。


「ねえ、アディー。好きなお花は何?」

と、デュラン王子が聞いてきた。


「うーん、そうね……。バラが一番好きかしら」


「何色が好き?」


「ピンク」


「アディーに似合うね。ちょっと待っててくれる?」


 そう言って、まさにバラが背後に散るような笑みを見せた後、デュラン王子は目の前の花屋さんに入って行った。


 マルクは、お花にかけらも興味ががない様子。

 甘いもののエリアで、いつの間にか調達していたお菓子を、袋からだして食べている。ほんと、よく食べるわね……。


 ロイドは、私の背後に、ぴたりとはりついたまま。

 なんというか、みんな、マイペースよね……。


 私は、店先に並べられたお花を見て、疲れた心を癒していると、デュラン王子が戻ってきた。


 びっくりするほど大きな花束を抱えている。


「これ、初めてのデートの記念に。アディー、受け取って」

そう言って、甘く微笑んだデュラン王子。


 いや、デートではないですが……。

 でも、すごい数のバラよね。しかも、全部ピンク色のバラ!


 そんな花束を差し出すなんて、童話にでてくる王子様みたい!

 と思ったら、本当に王子だったわ。

 そして、私はこれでも王女だったわ。


 手渡された大きな花束に顔をうずめると、色々全部ふきとんだ。


 なんて、いい香りなの! 幸せ~!


「ありがとう! デューさん」

と、満面の笑みでお礼を言った。


「どういたしまして。店中のピンクのバラを買い占めてきちゃった」

と、バラの香りに負けない甘い何かをまき散らすデュラン王子。


 なんか、やっぱり、私も女の子ね。バラに埋もれると照れてしまうわ!

 キャー!


 ……じゃなくて、しっかりするのよ、私!

 危うく、心をもっていかれそうになってしまってたわ。


 さすが、魔王ね。恐るべし!

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