第30話 市場に到着

「アディーのまわりは、……うん、なんというか、興味深い人が多いね」


 微妙な空気の中、言葉を絞り出すデュラン王子。

 ロイドを、どうとらえていいのか、とまどっているようね。


 で、そのロイドはというと、デュラン王子は放置で私にばかり気を配っている。


「アデル様、ほら、足元、気をつけて」

と言いながら、小石をひろう。


「日差しがきついですね」

と言いながら、私の頭の上に手をかざす。


 ええと、日陰を作ろうとしてるのかしら?

 デュラン王子が目を見開いている。


「ロイド……。相当変に見えるから、やめてくれるかしら?」

 私がやんわりと注意する。


「お気になさらず」

そう言って、極上の笑みを浮かべるロイド。


「いや、それは無理だろう。気になりまくりだ……」

と、つぶやくデュラン王子。


 が、ロイドは相変わらず、私に声をかけ続ける。


「アデル様。もう着きますからね。がんばってください」


 がんばるもなにも、馬車から市場まで、すごーく近い。

 ほんと、ロイドには私が幼児に見えているんだろうと思う。


 マルクも他の護衛騎士たちも見慣れているので、完全に無視だけれど、デュラン王子の目は、もう、ロイドに釘付け。


 せっかくの町の景色、全く見ていないわよね?

 まあ、わかるけど…。

 出会ったことのない生き物に遭遇したら、まわりに目がいかないものね。


 そして、市場に到着。

 町の人たちでにぎわっていて、わくわくしてきた。


「ここが、この町で、一番歴史が古い市場です。一年中、朝早くから夕方まで、休みなくあいています」

と、ロイドが説明した。


 うわあ! あまーい、いいにおい!


「マルク! あそこのお店、おいしそうだよ!」


 思わず、甘いもの好き仲間に声をかける。

 ずーっと疲れた顔をしていたマルクが、やっと笑顔になった。


「ねえ、ロイド。あのお店、何を売ってるの?」


「揚げ菓子を売っています」


「へえ、ちょっと食べてみる?」


 そう提案してくれたデュラン王子が輝いて見える。


「ええ! マルクも行ってみよう!」

と、走り出そうとしたが、ロイドに取り押さえられた。


「走ったら危ないです」


「大丈夫よ! すぐそこじゃない?」


「ダメです。転んだら大変です。私が買ってきますから」

と言って、すぐさま走っていき、お菓子を手にして、すごい勢いで戻ってきた。


 ねじった棒状のお菓子が、一個ずつ紙にくるまれている。

 しかも、てっぺんには白いお砂糖がまぶされていて、なんて美味しそう!


 ロイドは、デュラン王子とマルクにそれぞれ手渡した。

 私も手をだす。


「アデル様は少々お待ちを」


 え? なんで?

 そう思った次の瞬間、ロイドは、お菓子の上の方を勢いよく、ちぎり取った。


「ちょっと、ロイド! なにするの!」


 が、ロイドは答えず、ちぎった部分を自分の口に放り込んだ。

 そして、口の中で、しばらく噛んで、やっと飲みこんだ。


「毒はありませんね。大丈夫です。どうぞ、アデル様」


 ……ああ、毒味ね。それ、今いる? 

 

 しかも、一番おいしそうな、お砂糖がかかったてっぺん部分がなくなっちゃったんだけど。


 マルクが気の毒そうな目で私を見ている。

 デュラン王子は、お菓子のことも忘れて、またもやロイドに釘付け。

 ロイドは、涼し気な顔で私を見ている。


 ほんと、なに、この状況? こんな感じが、今日、ずっと続くの?

 すでに、ぐったりだわ……。


 まあ、でも、揚げたてのお菓子は美味しかったし、マルクも甘いものが補給され、顔色が戻ったから良かった。

 

 デュラン王子は、お菓子の味は、多分、あんまりわかっていないと思う。

 ロイドしか見ていないものね。




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