第29話 ロイド登場

「それでね、アデル王女のことは、アディーって呼びたいんだけど、いい?」

デュラン王子が聞いてきた。


「アディー?」


「そう、デューとおそろいみたいでしょ」

デュラン王子が、艶っぽく微笑んだ。


「じゃあ、マルクのことは、どう呼ぶの?」


私の質問に、マルクの体がびくっとする。

そして、私にむかって、猛然と首を横にふってきた。


巻きこまれたくないんだね。

水くさいぞ! 親友じゃない。

よし、どんどん、巻きこんであげよう!


「マルクのままでいいんじゃない。呼びやすいし」

と、即答したデュラン王子。


 少しは考えて?


 仕方がないわね。私が考えるわ。

 おそろいみたいな呼び方がいいわよね。


「そうね……。マルクは、マルティーにしましょう」


「ほんと、やめて。マルクでいいよ」

と、マルクは疲れた顔をみせた。


 あら、そう? 結構、いいと思ったんだけど。


「フフッ、ほんとアディーっておもしろいね。一緒にいたら退屈しないだろうね」

と、早速、アディー呼びだ。


これは負けていられない。


「そうでもないと思うわよ、デューさん」

私も、無理無理、使ってみる。


 すると、デュラン王子は、とびきり甘い笑顔を私に向け、マルクは大きなため息をついた。


 マルクが一気に老けこんだみたい……。


 こんな意味のない会話をしている間に、町に到着した。

 馬車がとまり、扉が開いた。


 まずは、デュラン王子に降りていただく。


 そして、私が降りようとすると、デュラン王子が手を取ってくれた。

 洗練されていて、流れるような所作。優雅で、つい見とれてしまう。


 なのに、魔王……。

 

 本当に、かえすがえすも、中身が残念よね。

 まあ、それは、ユーリも同じなのだけれど。


 そこへ、ロイドがやってきた。

 騎士服に身をつつんだ姿は、ちびっこの私が見上げるほど背が高い。

 

 また、悔しいことに、ロイドも美形。つまり、きらきら人種だと言える。

 漆黒のまっすぐな髪。切れ長の目は深い緑色で、シャープで整った顔立ち。


 噂によると、年頃の貴族の令嬢たちに、ユーリ派とロイド派と言われるほど、大人気らしい。


「今日、案内させていただく、王太子専属護衛騎士のロイド・マルクラインです。よろしくお願いいたします」


「こちらこそ、よろしく」

と、にこやかに答えるデュラン王子。


「じゃあ、まずは、市場にご案内します」


 市場?! やったー! 

 市場と言えば、美味しいもの。気持ちが舞い上がるわ。


「では、アデル様はこちらに」


 ん? と思う間もなく、ロイドに手をひかれ、あっという間に、ロイドの隣に移動させられた。

 

 つまり、私、ロイド、ちょっと間があいて、デュラン王子、マルク、こんな並びになった。


 ええと、どういうこと?


「アデル様はお小さいですからね。この配置で私がしっかり守ります」


 小さくて悪かったわね。

 じゃなくて、この並び、おかしくない?

 ロイドはデュラン王子のそばにいるべきよね。と、目で訴える。


「大丈夫です。第二王子殿下の護衛は、他の優秀な騎士たちで万全です。なので、私は、アデル様をお守りするのに専念致します」


 切れ長の目が、まっすぐに私を見る。


「いやいや、今日のあなたの役目は、町の案内とデュラン王子の護衛でしょ!」


 思わず、口にだして言ってしまった。


「アデル様を守る以上に、優先すべきことはありませんから」


「いやいや、あるわよ」


「ないです」

 

 言いきるロイドに私は言い返した。


「ないわけないじゃない。だって、ロイドは王太子専属護衛騎士でしょ? もし、ルイ兄様がいたら、そっちを優先するでしょ?」


「いえ、まさか」


 まさかって……。おかしいわよ、その言葉。


「アデル様の専属護衛騎士に移動の希望を常にだしております。なので、守るべき存在は、ルイ様よりも断然アデル様です」


 うん、いろいろ、ひどいわね。

 ルイ兄様、ここにいなくて良かったわ。


 さすがのデュラン王子もあっけにとられて、言葉がでてこないみたい。


 うん、わかるわ。違和感がすごいものね。

 だって、見た目だけなら、仕事ができる騎士なのに、不思議なものが、もれだしまくりだもの。


 そう、ロイドは立派な騎士だけれど、私のことになると、一気に心配性になる。

 ルイ兄様と乳兄弟のロイドは、小さい頃から私の面倒を見てくれていた。そのせいか、誰よりも私に過保護なんだよね。


 普段、ロイドは冷静で淡々としているから、私と接する時の言動にみんなびっくりする。今も婚約者がいないのは、それも理由なんだと思う……。


 更に、ロイドはユーリと徹底的に合わない。というか、天敵?


「私は意見を言う立場にありませんから」

と言いつつも、ユーリを私の婚約者だと認めていないことが丸わかり。


 裏がなく正直すぎるロイドと、裏だらけの腹黒ユーリ。

 真逆だから合わないのかしら。


 つまり、ユーリと同類のデュラン王子とも合わない気がする。

 だから、今日は、お互いに深くかかわらず、穏便にやりすごしてほしいわね。


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