第28話 町へ行く
昨日のパーティーの後、気を失うように眠ったおかげで、体はスッキリ!
睡眠は大事ね。
おかげで、昨日の記憶も少し薄れた感じ。
このまま、あの恥ずかしいダンスはなかったことにしよう。
そう、なかった、なかった、なかった……と、暗示をかける私。
朝食の席につくと、今朝はルイ兄様と私だけ。
両親は公務でいなかった。
昨日の削られた体力を取り戻すため、もりもり食べていると、ルイ兄様がのんびりした口調で話しかけてきた。
「あっ、そうだ、アデル。今日は、デュラン王子に同行してね。町の様子が見たいんだって」
ぐっ……!
あやうく、パンがのどにつまりそうになった。
「なんで、私? ルイ兄様が同行すればいいじゃない?」
「そうしたいんだけどね。はずせない公務があるんだ。だから、お願いね」
そう言うと、にこにこと笑った。
いやいや、お願いねって言われても、嫌なんですが……。
昨日の状況、見たでしょ?
また、ややこしいことになる予感しかないんだけど。
「町を案内するなら、私より詳しい人が、いっぱいいるじゃない? 私は役にたたないよ」
これでどうだ。まっとうな意見だよね!
ほら、撤回して!
「うん、だから、ロイドをつけることにしたから。デュラン王子と一緒にアデルも町で楽しんでおいでよ」
ロイドとは、ルイ兄様の専属護衛騎士で、ルイ兄様の乳兄弟でもある。
私にとっても、兄のような存在だ。
伯爵家次男のロイド。
母方の祖父は、町の中心に大きな店をかまえている。
幼い頃から、そこへ行き来しているからか、町を知り尽くしているロイド。
それに、剣の腕もすごい。他国の要人に同行するには、確かに最適だと思う。
でもね……。
デュラン王子と混ぜあわせたら、これまた危険な香りがプンプンするわ。
その場にいたくないわね。うん、逃げよう。
「じゃ、ロイドだけでいいじゃない。私が行かなくても」
すると、ルイ兄様は首を横に振った。
「ダメダメ。デュラン王子のご指名だから」
ルイ兄様、魔王の言いなりじゃない!
ということで、今、私は、王室所有の馬車の中にいます。
目の前には、デュラン王子が優雅にすわっておられます。
今日も今日とて、まぶしいお姿です。
そして、なぜか、私の隣にはマルクが!
情報をつかんだユーリが、自分も同行しようとしたらしいけれど、仕事のためにどうしても行けず。
マルクを無理矢理おしこんできたみたい。
色々、気の毒なマルク。目が死んでいるわ……。
ここへ来るまでに、ユーリから受けただろう苦労がしのばれる顔ね。
そして、ロイドはとういうと、馬に乗り馬車を先導している。
ということで、まだ、二人はちゃんと会話をしていない。
ほんと、今日、大丈夫かしら?
ドキドキがとまらないわ。もちろん、悪い意味で。
とりあえず、まずは、マルクをちゃんと紹介しなきゃね。
「デュラン王子、こちらが、ロンバルト公爵家のマルクです」
デュラン王子は、にこやかに言った。
「じゃあ、君が次期公爵の弟さんなんだね。似てないね。君とは友達になれそうだ」
つまり、ユーリとは友達になれないということね……。
マルクの顔がひきつっている。がんばれ、マルク!
「ロ、…ロンバルト公爵家の次男、マルクと申します。今日は兄から無理矢理、…いえ、兄の代理できました。よろしくお願いいたします。デュラン王子殿下」
「うん、こちらこそよろしく。大変だねー、お目付け役? まあ、一緒に楽しもうね。うーん、でも、なんか固いなあ、その呼び方。今日は、町の中を気軽に楽しみたいんだよね」
「はあ……」
マルクは間の抜けた声で、相槌をうつ。
「だから、こうしない? 二人とも、町では、僕をデューさんって呼んでよ」
「「はあ?」」
思わず、マルクと声がかぶってしまった。
「二人は息がぴったりだね。やけちゃうな」
そう言って、ウインクしてきたデュラン王子。
何故、ここでウインク……?
よくわからないけれど、馬車の中が甘さでいっぱいになる。
密室だと、甘すぎて、むせかえりそうよね……。
ほら、マルクなんて、窒息しそうな顔で震えてるわ。
ウインクひとつで、なんて武器なの!
さすが魔王。ほんとに油断ならないわね。
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