第27話 ダンスは終わったけれど

 こんな拷問のようなダンスって、ある!?


 途中、デュラン王子がきたけれど、ユーリがかわるのを断固拒否。

 私の手を握って離さない。

 振りほどこうとしても、すごい力でつかまえられている。逃げられない獲物の気持ちがわかるわね……。


 しかも、いつもは、冷気で私を震え上がらせるくせに、強くにぎってくる手が熱すぎるのですが。

 ユーリも体温のある人間だったのね。……なーんて考えてる場合じゃない。


 言いたくはないけれど、私の手汗がすごいことになってるから。

 相手がユーリといえど、乙女心が死ぬ。とりあえず、手を離して!


 が、それも叶わないまま、ユーリとだけ踊り続けるはめになった私。


 ルイ兄様が、ダンスの途中、すれ違うたび、ププッとふきだす声が聞こえてくる。

 笑ってないで、助けなさいよー!


 目で訴えるが、涙を浮かべて笑っているだけ。

 ほんと、頼りにならないわ。


 こうなったら、そう、親友のマルク!

 さっきは逃げたけれど、信じてるわ。親友だもの。


 ほら、合図を送れば……って、何食べてるの!?

 また、マカロン?! いいわね、のんきで……。 

 ということで、こちらも、全く頼れない。

  

 あっ、そこでダンスを見ているのは、公爵夫人であるレイラおばさま!

 ユーリの母上だもの、とめられるんじゃない?


 息子さん、奇妙な状態になってますよ? 助けてください!


 近づいた時に、必死で目で訴える。

 が、なぜだか楽しそうに手をふってきたレイラおばさま。


 そうね、助けを求める人を間違えたみたい……。


 次は誰に助けを求めようかと、きょろきょろしていると、ぐいっと腰をひかれた。

 目の前に、美しすぎる顔が!


「ちょっと! ユーリ、もっと離れてよ!」


「ねえ、さっきから、どこ見てるの? 怒るよ、アデル」

と、魔王が耳のそばで言った。


 だから、近いってば! ぞくっとするじゃない。


 顔が熱くなった私を見て、魔王は極上の笑顔をみせた。


 そして、やっと、ラストの曲が終わった。

 私は色々削り取られ、もう、消えてしまいそうだ。


 ユーリはといえば、更に輝きが増し、上機嫌に見える。

 さすが、魔王。私のエネルギーを吸い取ったわね!


 でも、これで、やっとお開き。

 私は疲れ果ててます。もう、帰らせて!


 が、ここで、ブルージュ国を代表して、ご挨拶が。

 もちろん、話をするのは、交渉団の団長デュラン王子だ。


「本日は、すばらしいパーティーを開いていただき、ありがとうございます」


 甘い微笑みを振りまきながら、話し始めたデュラン王子。

 一気に、令嬢たちが釘付けになった。

 

 時にユーモアを交えて、なめらかに話すデュラン王子を、うっとりと見つめるご令嬢たち。

 気をつけて。中身は魔王だから……。

 という思いも通じることはなく、だいたいのご令嬢たちが魅了されつくした頃合いで、挨拶が終わるよう。


「これからは、国の垣根を越えて共に発展していけることを強く願っております。まずは、その先陣をきって、アデル王女が我が国を訪問してくださることとなりました」


 え……? 

 それ、さっき、決まったばかりだよね。もう、言うの? 

 なんか、嫌な予感がするんですが?


「あまりに嬉しくて、明日、帰国する予定でしたが、私だけ、もう少し滞在させていただくことにいたしました」


 なんで? いやいや、帰ろうよ!


「そして、帰国する際に、アデル王女とご一緒できるよう、王太子殿下にご了承していただきました」


 はあ? ルイ兄様? なに、勝手に了承してるの!?


 ここで、にこにこしながら、ルイ兄様が登場。


「デュラン王子がご一緒してくれたら、道中も安心ですから。早急に、アデルの訪問の準備を整えたいと思います」


 魔王にすっかりまるめこまれているルイ兄様。


 そして、お隣さんのご機嫌は急降下。

 一気に、冷気が漂い始めた。


 ユーリさん、寒いよ……。

 汗が一気にひいていくから、風邪ひくじゃない。


「この国のことをもっと知りたいと思いますので、みなさん、滞在中、色々教えてくださいね」

 デュラン王子のとどめの言葉に、魅了されたご令嬢たちが、勢いよく、うなずく。


 ん? ちょっと待って? 

 つまり、私は、ブルージュ国への道中、この二人の魔王と一緒ってことよね?  

 私だけ別便で行かせてもらえませんか?


 ほんと、リッカ先生に会うまでの道のりが遠すぎるわ……。




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