第24話 決まりました

「じゃあ、アデルに決めてもらおう。アデルのことだからね。ブルージュ国へ行ってみたい?」


 ルイ兄様が、にこにこしながら聞いてきた。


 ええっー、ここで、私にまるなげ?

 その答えを、ここで、私に言えと!?


 ルイ兄様、ほんと、やめてよ……。

 見てよ、私の両隣。


 もちろん、行くよね、と期待に目を輝かせている、ブルージュ国の魔王。

 行くなんて言うはずないよね、と目の圧がすごい、オパール国の魔王。


 とりあえず、無難にやりすごしたい。


「ちょっと考えたいんだけど……」


 すると、デュラン王子が意味ありげな笑みを浮かべて言った。


「アデル王女が来られたら、僕専用の図書室に案内したいな。リッカさんの本は、すべて、初版本でそろってるからね」


 え……? 嘘っ!? 信じられない! 

 

 だって、リッカ先生の初期の頃の本は手に入らなくて、読んでいない本があるんだよね。

 しかも、初版本!? 初版限定の装丁もあるし、うわああ!!

 見たい、読みたい、触りたい、匂いをかぎたい!!!


「それに、リッカさん本人も招待するよ」


 ななな、なんですってぇー!!


「行きます!! 行かせてください!!」


 あ、つい、口からでちゃった。

 でも、仕方がないよね。だって、リッカ先生だもの!

 

「良し、決まったね。じゃあ、早速、予定を組もう」

と、ルイ兄様が言った。


 のんびりモードのルイ兄様なのに、やけにしきりが早い。

 多分、これ以上もめるのが面倒なのね。

 だから、言質はとったよって感じで、すぐさま決めに入ったのだと思う。

 

 が、どうするの、隣の人?

 冷気がすごくて、さっきから鳥肌がとまらない……。


 そして、何かしゃべって!

 黙ってるのも怖いから……。


 ほんの少しの間だけど、永遠のように感じた静けさ。


「わかりました。じゃあ、俺も同行しますね」

と、ユーリの底冷えする声が沈黙を破った。


 ええ!? それはやめて!

 魔王二人と一緒にいるなんて、考えただけで疲労がたまる。 


「ダメだよ、ユーリ。ユーリがいなかったら、ぼくが困るから。仕事が山積みだよ?」

と、のんびりした口調のまま、ルイ兄様が反論する。

 

 そうよ、ルイ兄様! がんばって、ユーリをとめて! と、必死で応援する私。


「知りませんよ。俺の重要度は、王太子よりアデル。仕事よりアデル。国よりアデルですから」


 ええ!? なにそれ、怖い!

 

 別の人が言うと、熱烈な愛の告白みたいな言葉なのに、全然そうは聞こえない。

 多分、魔王ユーリは私を使い魔くらいに思ってそうだから、許可なく離れることは許さないのね……。

 

「大丈夫ですよ。アデル王女は僕がお守りしますから。どうぞ安心してください」

と、デュラン王子。 

 やわらかな物言いだが、すみれ色の瞳が挑発的に光っている。


「いや、結構です。……王太子、アデルが行くなら俺は絶対ついていきますから」


「ええー、もう仕方がないなあ」

と、不服そうな声をあげるルイ兄様。 


 やはり、ルイ兄様に勝ち目はなかったわ。

 

 つまり、私は、ブルージュ国では、この魔王同士の小競り合いに巻き込まれるってことだよね……。

 でも、リッカ先生に会えるのなら、私、がんばる! 

 すべては、リッカ先生のために!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る