第22話 黒いんですが

 怖いので振り向かずにいたら、ユーリのほうから近づいてきて私の隣に立った。

 寒い。なんだか、温度が急に下がった感じよね……。


「これは、ロンバルト次期公爵。交渉の際は、お世話になりました」


 デュラン王子が、爽やかな笑顔でユーリに話しかけた。


「こちらこそ、良い交渉ができて感謝しております」

と、完璧な笑顔で答えるユーリ。


 見目麗しい二人に、ご令嬢たちから黄色い声があがる。

 

 わかる、わかる。

 二人揃うと、更に、きらきらするものね。

 まぶしすぎて、天界にいるようだわ……。


 でも、なんでかしら?

 心がざわざわするの。悪い方に……。

 天界とは真逆の空気の重さを感じるわ。


「ところで、アデル。なに話してたの? なんだか、もりあがってたみたいだったけど」

と、私に聞いてきたユーリ。


 美しい笑みを浮かべているけれど、やっぱり、目が笑っていない。

 怖いわね……。


 デュラン王子が私に向かって微笑みながら言った。


「アデル王女とは好きな作家が同じでね。すっかり、友人になってしまいました。ね、アデル王女」


 あれ? ユーリの質問に答えているようだけれど、私から目をそらさないデュラン王子。

 

「へえ。会って時間もたっていないのに友人? そんな簡単になれるものは、ただの他人だよね。ねえ、アデル」

と、ユーリも私の顔を見たまま、そう答えた。

 

「時間は関係ないですよ。ひかれあうのは一瞬だから。ね、アデル王女」


 ん……? さっきから、この二人、おかしいわよね……?


 ということで、はい、質問!

 なぜ、二人は私をはさんで、やりとりするのでしょうか?

 

「時間は大事だよね。長い間、ずーっと一緒に過ごしてきた二人の絆は、だれにも邪魔できないから。ねえ、アデル」


 はい、また質問!

 なぜ、二人は私の顔だけを凝視して、やりとりをするのでしょうか?


 話しかけられるたび、顔を左右に向けるので、首が疲れるわ……。


「ただ時間だけ長くてもね。ダメなものはダメだけどね。そうでしょ? アデル王女」


 はい、またまた質問!

 なぜ、二人はとってつけたように、私の名前を最後につけるのでしょうか?


 私の答えを求めていないのなら、私の名前を呼びかけるのはやめてほしい。

 厄介なことに、まきこまれている感じがすごいから……。


 なんて考えている間も、二人の不毛なやりとりは続いている。


「二人の絆を邪魔する人って、どう思う? ねえ、アデル」


「邪魔されると思うなら、それほどの絆じゃないってことだよね。そう思うでしょ。アデル王女」


「まさか。ぼくたちは絶対に離れられない絆だよね。ねえ、アデル」


「そう思っているのは、自分だけなんじゃない? ですよね、アデル王女」


 二人の私に向ける笑顔が邪悪なものにしか見えない。

 もしや、私、呪いをかけられてるの?


 なんだか、寒気がとまらないもの。


 まわりのご令嬢たちは、美形二人に挟まれて、うらやましい! みたいな目で私を見ているけれど、全然違うから!

 

 きらびやかに見えるこの場所は、真っ黒いオーラでいっぱいだからね!

 ここにたってみたら、わかるわ。

 誰か、この立ち位置、変わって欲しい!


 と、心の中で叫んでいると、マルクと目があった。うっとりとしたご令嬢たちの外側で、心配そうな顔でこちらを見ている。


(ちょっと、たすけてよ!)


 私は、渾身のクチパクで言った。


 (ごめん、ムリ)


 すぐさま、クチパクで返してきたマルク。


 ちょっと、あきらめるのが早いわよ! 親友でしょう!?


 マルクはおびえた顔で、ユーリとデュラン王子を見ている。

 そうだよね。まさか、ユーリと渡りあえる人がこの世にいるとはね。


 外見は、天使と天使でも、その正体は、オパール国の魔王VSブルージュ国の魔王だわ。


 そして、私の心には、前世の言葉が点滅している。


 まぜるな、危険!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る