第21話 寒いんですが

「アデル王女、どうかした?」

と、デュラン王子が聞いてきた。


 はい、命の危機がせまっています。なんて言えない……。


「いえいえ、ここ、少し冷気があたって寒いなあって……」

と、答えながら、さささっと横歩きをする私。


 とりあえず、速やかに、ユーリの視界から逃れなきゃ。


「空調がよく効いているからね」

と、デュラン王子もついてきた。


 ここまでくれば大丈夫かな?


 振り返るのは怖いが、怖いものをそのままにしておくのはもっと怖い。

 なので、おそるおそる確認する。


 ちらっ


 お、ユーリの姿が見えない。

 ひとまず、よしっ!


「なんか、アデル王女っておもしろいね」


 はっと気がつくと、すみれ色の瞳が楽しそうに私を見つめていた。


 あっ! 今、私、王女らしさゼロだったよね。

 それどころか、不審者の動きだったよね!?


 よその国の王族の前で、私ったら恥ずかしい!

 なんとか、挽回を…。


「えっと、いつもの私は、もっとちゃんとしていまして……。そう、色々かきあつめて、王女らしくしているんです!」


 焦って答えると、更に変なことを口走ってしまった私。


「だめだ。……くくっ」


 そう言って、デュラン王子は体をふるわせて笑いだした。

 まわりから、きゃっと声があがる。


 花をまきちらしながら笑う姿は、甘さ爆発。まわりのご令嬢たちの視線を釘付けにしている。


 ……が、なかなか笑いがとまらない。


 もしや、笑い上戸ですか?

 まあ、楽しそうで何よりですが……。


 やっと、笑いがとまったデュラン王子は少しかがみ、背の低い私の目線にあわせてきた。

 すみれ色の瞳が、私の瞳をとらえる。


 その瞬間、なんかぞわっとした。

 ちょっと、ユーリみたいなんだけど……。


 妖しい色気?みたいなものが漂いはじめ、ご令嬢たちが悲鳴をあげた。

 さっきまでの邪気のないデュラン天使はどこへ行ったの? 

 戻ってきて!!


 私は思わず横に逃げようとすると、長い手がのびてきて遮られた。

 真剣な顔。


 え、怖い! なに、なに? なに、言われるの?


「アデル王女のこと、もっと知りたくなったんだけど」


 ……ん? 

 

 なーんだ、そんなこと。真剣な顔で言うから、びっくりしたわ。

 それなら簡単。


 「いいですよ! だって、リッカ先生のファンなら、もはや親友。

 お互い、どんどん知っていきましょう!」


 デュラン王子は、一瞬驚いたように固まったあと、つぶやいた。


「なにこの生きもの。おもしろい、かわいい、育てたい」


 え? 今、なんか、変なことを言わなかった?

 と思ったら、デュラン王子は、また、天使のような笑顔に戻っていた。


 うん、聞き間違いね。そう思った時だった。


「ねえ、アデル。なに、堂々と浮気してるの?」


 背後から、地をはうような声がした。

 

 

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