第20話 デュラン王子

 デュラン王子が、聞いてきた。


「ところで、ミカル王太子から聞いたのですが、アデル王女は本がお好きとか?」


「大好きです!」


 つい、声が大きくなってしまった。いい人だと、会話にも熱がはいるわ!


「私も大好きなんで、お話してみたいと思っていたんです。だから、今回、オパール国へくることになって、お会いできるのを楽しみにしていました」

と、素敵な笑みを浮かべるデュラン王子。


 天使なうえに、本が好きだなんて!

 デュラン王子、いえ、デュラン天使の好感度が、私の中でどんどんあがっていく。


「アデル王女は、シンガロ国の本も読まれるのですね」


「ええ。シンガロ国は、おもしろい本が多いですから。姉に送ってもらっているのです」


「そうですよね。ぼくも、シンガロ国へ留学していた時は、本屋に入り浸りでした。どのような本がお好きですか?」


「物語が好きです。特に、シンガロ国のリッカ先生の大ファンなんです!」


 デュラン王子が目を見開いた。


「リッカさんは、知り合いですよ」


「えええーっ!!」


 思わず、王女としては、あるまじき声をあげてしまった。

 あわてて口をおさえる。


 でも、仕方がないわよね。

 大ファンのリッカ先生だよ! 冷静になれるわけがない。


 デュラン王子は、ふふっと笑った。


「実は、僕もファンでね。留学していた時、コネを使いまくって、やっと会うことができたんだ。それ以来のおつきあいで、今度、リッカさんに、うちの国で新刊を書きおろしてもらうことになった。僕の翻訳でね」


 デュラン王子の口調が一気にくだけた。

 わかるわ。リッカ先生のファンなら、皆、親友よ!


「うらやましいわ! 私も読みたい!」


『新刊ができたら送るよ。ブルージュ語がわかる?』

と、ブルージュ語で聞いてきたデュラン王子。


『大丈夫! 読めるし、話せるわ』

と、私もブルージュ語で答えた。


『上手だね。さすが、才女と名高いアデル王女だ』

そう言って、デュラン王子が優しく微笑んだ。


 なんて、癒しに満ちた笑顔。さすが、デュラン天使。

 こんな良い人が、リッカ先生のファンで、しかもお知り合いだなんて、嬉しすぎる!

 

 と、その時だ。

 

 背後から、ぞわっと冷気がただよってきた。

 反射的に振り返ると、ユーリと目があった……。

 すぐに反らした。

 だって、射殺すような視線でこっちを見ているんだもの!

 

 一体、何を怒っているのかしら? 

 まるでわからないけれど、まぶしすぎる仮面が完全にはずれてしまっていますよ、ユーリさん……。

 まわりのユーリファンの女性たちにばれるじゃない、本性が。

 

 でも、公の場で、仮面を外すなんてユーリにしては珍しいわね……。

 

 なんて、のんきに考えている場合じゃない。

 どう考えても、矛先は私よね。

 私、なにか怒らせるようなことをしたかしら?


  あ! 王女らしからぬ様子で喜んでいたから、婚約者がはしたなくて怒っているのかも……。  

 

 デュラン王子とリッカ先生について、じっくり語り合いたいけれど、それどころじゃないわね。

 

 ひとまず、ユーリの視界から逃れよう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る