第19話 ブルージュ国

 パーティーが始まり、父である王の挨拶など一連の流れが終わると、会場がざわめきはじめた。

 

 待ちに待った自由時間。

 いざ、ユーリファンのもとへ! と、思ったけれど、……動けないのよね。


 次から次へと、挨拶にやってくる人たちに囲まれてしまった私。

 なんとかこの輪から抜け出そうと、目線を先に動かすと、きらびやかなドレスの集団に囲まれているユーリを発見。


 もちろん、あのご令嬢たちだ。

 

 ほおー。既に、あちらは、いい感じじゃない?

 みんな、がんばって! 後で、私も見に行くからねと、女性たちに心の中でエールを送る。

 心の中では、もう、すっかり友達だ。


「アデル、ちょっとこっちへ来て」

と、王太子のルイ兄様から声をかけられた。


 その途端、私を取り囲んでいた人たちが急いで道をあけた。

  

 近づくいていくと、ルイ兄様と一緒にいるのは、本日の主役であるブルージュ国の交渉団の団長。なんとブルージュ国の王子様でもある。


 すらりと背が高く、ゆるやかにウエーブしたハニーブラウンの髪で、整った顔立ち。

 が、なにより目をひかれるのは、すみれ色の瞳だ。

 この国では、見たことがない珍しい瞳の色。

 

 ご挨拶しなきゃ。

 

「オパール国、第二王女のアデルと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


「私はブルージュ国の第二王子のデュランと申します。こちらこそ、よろしく」

と、爽やかに挨拶を返してくれたデュラン王子。

 

 ルイ兄様がにこやかに言った。


「デュラン王子が、アデルと話がしたいそうだ」


 え? 私と……?

 

 とまどう私を放置し、ルイ兄様は、「じゃあ、のちほど」と、デュラン王子に声をかけて、他の人たちの輪に入っていった。


「実は、アデル王女と会うのは、今回が初めてではないんです」

と、微笑んだデュラン王子。


 その瞬間、整った顔が一気に甘くなった。

 しかも、すみれ色の瞳がきらきらしている。


 なに、この笑顔!?  

 瞳が輝いて、スミレの砂糖菓子にしか見えないだんけど!?

 甘いわ! そして、まぶしい……! 

  

  見た目だけで言えば、ユーリとはまた違うタイプの天使っぽさがあるわ。


 そして、悲しいかな。

 まぶしすぎると、誰かを思い出し、条件反射で後ずさりしてしまう私。


 が、その分、デュラン王子が近づいてきた。


「去年、シンガロ国のミカル王太子とあなたの姉上、カレナ王女の結婚式で、お見かけしました」


「姉の結婚式に来てくださっていたのですね。ありがとうございます」

と、答えたものの、全く思い出せない。


 まあ、それも、仕方がない。だって、あの時はカレナ姉様ばかり見ていたから。

 というのも、長年の思いが叶ってのミカル様との結婚式で、カレナ姉様が変なテンションになってしまって、心配で目が離せなかったんだよね。


「私は、シンガロ国に留学していたことがありましてね。年齢はミカル王太子が二つ年上で先輩なのですが、仲良くさせてもらってるのですよ」


ミカル王太子の二つ年下ということは、私の8歳上。

あっ、ユーリと同じだ。


「アデル王女は、あの時も愛らしかったですが、今は、お美しくなられましたね」

そう言うと、ほんのり頬を染めたデュラン王子。


「いえ、そんな……」


 なんて答えたけれど、なに、この方!? すごい、いい人なのだけど!?

 ユーリと違って、中身も天使じゃない!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る