第18話 さあ、はじまります

 エスコートするために待ってくれていたユーリ。

 衣装は濃いめのブルーで、私のドレスと色を合わせている。

 

 私を見て、艶やかに微笑むユーリ。

 いつものことながら、近くにいた侍女たちから、ため息がもれた。

 

 まあ、私から見たら外向き専用の笑顔だけれどね……。


 近づいた途端、ユーリは、うっすらと眉間にしわを寄せた。


「どうしたの、アデル。その髪型。気に入らないんだけど」


「はあ?」


 そりゃあ、ユーリが私を見て、ドキドキなんてするとは思わなかったけれど、なんたるひとこと。失礼すぎるわよね!


 不機嫌そうな声で、更に、ユーリは続けた。


「今日のパーティーは、虫がいっぱいいるんだから、やめてよね。そんな髪型」


「虫? まあ、確かに初夏だからね。でも、中庭には、でるつもりはないから大丈夫。髪をあげてても、虫には刺されないよ。変なとこ気にするね、ユーリ」

 

 ユーリは、はあーっとため息をついた。


「……ばかかわいいんだけど、なんか腹立つな」


 なんですって!

 

 言い返そうと思ったら、パーティー会場の扉が開いた。

 入場だ。


 あわてて、王女仕様の笑顔をはりつける。


 広間の人たちの視線が、いっせいに集中する。

 この瞬間は、本当に慣れない。


 王女として、14年間生きてきても、やっぱり苦手。

 前世でも目立つことは苦手だったし、まず、注目されることもなかった。

 なのに、毎度、毎度、見られまくりなんですけど……。


 そして、隣の男はといえば、王族の私より王族らしい。


 優雅な笑みを浮かべて歩く姿は堂々としている。

 絶対知らない人が見たら、王族がユーリで、私がお付きとかだよね。


 そんなユーリを見て、ざわめく集団が。いつも私の悪口を言う、ユーリのファンたちだ。

 みんな、華やかなドレスをまとっている。

 

 今まで近づかないようにしていたから、気にしたこともなかったけれど、高位貴族の令嬢たちばかり。

 つまり、身分的に筆頭公爵家の嫡男であるユーリの婚約者になるのも問題ないってことよね。

 

 よし、いけるわっ!

 

 みなさん、お待ちしてましたー!


 思わず嬉しくなって、そちらの方を向いて、にっこりと微笑んでしまった。

 フフフフフ。


 令嬢たちは、なんだか驚いた顔をしている。

 それにしても不思議ね。

 いつもは、意地わるそうに思えていた顔も、今日は、なんだか、みんなかわいい!


「ねえ、アデル。なにしてんの? いつにもまして変なんだけど」


 ユーリが外向きの笑みをうかべたまま、不審げにつぶやいた。


 私も負けじと笑顔をはりつけたまま、答える。


「もちろん、あの素敵なご令嬢たちにご挨拶をしているの」


「あのあたり、いつも避けてるよね?」


「あら、そうだったかしら?」

と、とぼける私。


 ユーリの言う通り、今までは避けていたけれど、今日の私には、大きな使命があるものね。

 前世の記憶では、こういうのを、「昨日の敵は、今日の友」とか言うのだったっけ?

 みなさん、後で伺うから、よろしくね。


「なんか、ほんと気味悪いんだけど?」

と、ユーリがつぶやくが、無視だ。


 そして、私は王族の席に着席した。

 ユーリはここで離れ、公爵家の皆さんがいるところに向かった。


 おっ、マルクも来てるわ!

 なんだか、捨てられた子犬のような顔で私を見てる。


 あ、そうか。あの真実の愛作戦失敗から、会ってなかったんだわ。


 大丈夫よ、マルク。もう、あなたに手伝ってもらおうとはしないから、安心して。

 私は一人でやりとげるわ! 見ていてね。

 という気持ちで、マルクの方へ、にっこりと微笑んでおく。


 ユーリの冷たい視線が痛いけれど、ダンスの時までは別々だ。

 そして、その間が自由に動けるチャンスね!


 

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