第15話 命の危機?

「アデルは、ほんと、嘘がつけないよね? まあ、聞くまでもなく、マルクとは何もないことはわかってたけど。俺の目って、節穴じゃないし」


 まあ、ばれてますよね。なら、聞かないでよね。


「マルクのことはどうでもいいんだけど。ねえ、アデル。俺、ものすごく腹が立ってるんだ」


 え、なに、死刑宣告!?

 震える私に、ユーリが身を乗り出してきた。


「勝手に婚約をやめようとしたこと。俺って、自分の知らないところで、自分のことを決められるの嫌いなの」


 ええ、ええ。そうでしょうとも。すみません、私が悪いんです。


「それにね、さっき、アデルは言ったよね? お互い好きでもない政略結婚って……」


「うん。だって、それはそうだよね。決められた結婚だし」


 ここは、しっかり反論。私、間違ったことは言ってないぞ!


「違うよ。俺が決めたんだよ」


「はあ?」


「初めて会った時、アデルを気に入ったから、婚約者になれるよう根回ししたの」


 え、初耳なんですか?! しかも、根回しって、怖い……。


「初めて会った時、私、五歳だったよね?」


「そうだね。ばかかわいくて、一緒にいたら退屈しないなって思ったんだ」


 ばか……かわいい? ええと、それは、褒めてないわよね?

 ということで、ここで引いてはいけない。


「あのね、退屈しのぎになるような婚約者を選ぶんじゃなくて、ちゃんと、ユーリが好きになれる相手を選んだほうがいいよ。ということで、お互いのためにも、婚約はやめたほうがいいと思う……」


 ユーリの目が怖くて、最後のほうは、声が小さくなったけれど、なんとか言いきったわ!


「あのねえ、アデル。なんで、俺の気持ちをアデルが決めるの? アデルでも許さないよ」


 なんだか、急に寒くなった。

 どうやら、ユーリの方から冷たいものが流れてくる


 ユーリは、もともと膨大な魔力を持っている。色々、漏れてないかしら?

 ほんと、寒くて怖いわね……。


「まあ、でも、アデルの気持ちはよくわかった。好きでもないし、結婚もしたくないってことだね。今まで大切にしてきたつもりだったけど、まったく、俺の愛が伝わってなかったってことだね」


 え、大切? 俺の愛とは……?

 

 意味がわからず、とまどっていると、凶暴なほどの美しい顔が目の前にあった。


 近い! 近いよっ!


「でも、残念だね。一度、狙った獲物は逃がさないんだ。手放してあげないよ。覚悟しておいてね、アデル」


 そう言うと、ぺろりと私のほっぺたをなめた。


「……ぎゃあああ!」


 飛び上がって、叫んだ私。


「なんてことするのよ! 私は獲物じゃないのよ! 食べても、美味しくないんだからね!」


 私は、なめられたほっぺたを手でおさえて、ユーリから飛びのいた。

 敵に背中は見せられないから、壁際まで下がり、壁に背中を押しつけて張りつく。


「うん、確かに。今は、まだ美味しくないかもね。もうちょっと待たないと」

 そう言うと、ユーリは妖し気に微笑んだ。


 なんて、恐ろしいの!?

 やっぱり、私、食べられるってことよね?!

 

 だから、あんなに美味しいお菓子でおびきよせ、太らせてるんだわ!

 前世で読んだ、ヘンゼルとグレーテルの魔女みたいに。


 結婚どころか、命の危機がせまってたなんて、びっくりだ。

 私はユーリをにらみつけて、宣言した。


「私、絶対、結婚しないから!」


「うん、絶対逃がさないよ。やっぱり、アデルはおもしろいね」

と、ユーリは艶やかに笑った。


 何故だかわからないけれど、魔王のご機嫌はすっかりなおっているようだ。

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