第14話 魔王、降臨

「それで、アデル。さっきのセリフ、なんなの?」


「えっと、さっきの? とは、……なんだっけ?」


 とりあえず、とぼけてみる。


「盛大に愛の告白をしてたよね。友情かと思ってたら、真実の愛なんだって?」

と、マルクをゴミでも見るかのような視線を向けたユーリ。


 マルク、目を閉じていて良かったね。

 開けてたら、トラウマになる怖さだったよ。


 意識をとばし続けているマルクが、なんだかうらやましい。

 この目の前にいる、魔王から逃げられてるんだもんね。

 まあ、今だけだけど……。


 私は、頭をフル回転させた。

 どう答えれば、助かるのか。


 そして、ひらめきました!

 なんだ、簡単じゃない。真実の愛作戦のままでいいんじゃない?


 確かに、ユーリの性格なら、自分の知らないところで画策されたことは嫌かもしれないけれど、結局は、ユーリにとってもいいことだし。

 ユーリさえ同意してくれれば、私の計画通り、とりあえず、マルクに婚約者は変更され、ユーリも好きな相手と婚約を結びなおせるものね。


 ということで、演技続行!


「そう、その通りよ! マルクとの真実の愛に気づいたの。なので、ユーリとは、婚約を取り消したいと思って。ユーリもそのほうが、いいよね? ユーリだったら、選び放題。ものすごい美女とだって、結婚できるよ。だから、私たちみたいに、お互い好きでもない政略結婚はやめにしよう!」


 どうだ! 一気に言いきった!

 ユーリのほうは、怖くて見れないけど。


「へえ、驚いたな。俺のことまで気づかってくれてたんだね?」


 口調は穏やかなのに、冷え冷えとした声に凍えてしまいそう。

 なんか、ここ、寒いです……。


 それに、今、俺って言った?

 まずい……。


 ユーリが、自分のことを俺って言ったのは、一度しか聞いたことがない。

 なぜだか、猛烈に怒っている時だった。

 その後、制御できなくなった魔力が暴走したっけね……。


 ええと、私、生きて帰れますか?


「俺が、王命だからって逆らえず政略結婚するような奴に見えてたんだ、アデルには。なめられたもんだね」


 とんでもない! 断じて、なめてません!


「じゃあ、とりあえず、マルクとは、いつから真実の愛を育んでるの?」


 え……? そんなこと聞かれるとは思ってなかったわね。

 一瞬、思考が止まったものの、なんとか答える。


「いつから……、うーん。いつの間にか、……かしら?」


 うん、我ながら、曖昧で良い答えがでたわ。

 思わず、ほっとする。


「で、マルクのどこが好きなの?」


 これまた、難問ね。


「えっと……、寡黙なところ?」


「寡黙?」


 おっと、さっきの芝居にひっぱられてた。


「違ったわ。……そう、優しいところよ!」


 うん、これが無難だ。確かに、マルクは優しいもの。


「じゃあ、真実の愛って、何?」


 あ、これなら大丈夫。マルクに説明したみたいに、言えばいいもの。


「えっと、天国みたいなところにいる感じかしら?」


「ということは、マルクといると天国みたいなところにいる感じがするってこと?」


「いや、それはないわね。………じゃなかった。そうね……。そう思うわ」


「じゃあ、天国みたいなところにいる感じって、どんな感じなの?」


 すごい勢いで質問がとんでくるわね。

 が、ここは、ユーリの圧に負けないように、がんばって答えなきゃ!


 ということで、私にとって天国と思える状態にいる自分を頭に思い浮かべ、力を込めて言い切った。


「それは好きな本が読み放題というのが、まさに天国にいる感じよ!」


「なるほどね。じゃあ、つまり、マルクじゃなくて、本があればいいってことだよね、アデルは」

と、不敵な笑みを浮かべたユーリ。


 あれ? なんか、私、失敗した!?



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