第13話 怒ってますか?

 よし、真実の愛を言いきった!

 部屋はしーんとしているが、私、よく言った!


 そう思った時、背後から、大きな拍手が聞こえてきた。

 嫌な予感……。隣の銅像マルクが震えだす。


「ねえ、みんなでお芝居の練習でもしてるの?」


「「……」」

 無言の私と銅像マルク。


「あら、ユーリ、早かったわね。確か、隣国との交渉で遅くなるんじゃなかった?」

 いち早く正常に戻ったレイラおばさまが、さらっと聞いた。


「交渉なんて、さっさと終わらせましたよ。それより、アデル。素敵なセリフが、廊下まで聞こえてたけど。……あれ、なあに?」


 なあに? と、かわいく問われても、なんでしょう。

 

「ああ、私が気に入っているお芝居について、アデルちゃんと話していたのよ」

と、レイラおばさまが、あわてて、ごまかしてくれた。


 ありがとうございます。助かります。寿命がのびます……。


「ふーん、そう……。あ、母上。父上と帰りが一緒になったのですが、母上に急ぎの用があるようでしたよ?」


 え……? レイラおばさま、私たちを、おいていかないで!

 という願いもむなしく、レイラおばさまが私に言った。


「あら、何かしら!? じゃあ、私はいくわね。アデルちゃん、お話できて楽しかったわ。また来てね」

と、無情にも急いで部屋から出ていったレイラおばさま。


 予定変更。とりあえず、計画を立て直すため、まずは退散!


「なら、私もそろそろ、帰るとするわ。マルク、ユーリ。では、さようなら……」

と、椅子から立ち上がった瞬間、ユーリの鋭い視線に体が動かなくなった。


 蛇に睨まれたカエルの気持ちが痛いほどわかるわね……。

 

「ねえ、アデル。婚約者の留守に来て、婚約者が帰って来たとたん帰るなんて、ひどいよね? 少しお茶するくらい時間あるでしょう? ほら、座って」

そう言って、私の目の前の椅子に座ったユーリは、艶やかに微笑んだ。


 隣国との交渉だったため、正装に近い服装を着ているユーリは、正直、いつも以上にその美貌が際立っている。


 が、何か、ゆらめく湯気のようなものが、たちのぼっている気がするのよね……。

 怒りのオーラかな。うん、怖い……。


 隣を見ると、マルクは目を閉じ、心はどこかに飛ばしているよう。

 ということは、私が何か言わなきゃ。


「えっと、……ユーリ、お仕事、おつかれさま?」


「うん、話しの通じない奴がいて、本当に疲れた。なのに、帰ってきて、更に疲れる会話を聞くことになるなんてね」

と言ったあと、ユーリが笑顔を消した。


 いつも、内心がよめないような外面用の笑みを浮かべているユーリ。

 が、今は真顔ね。怖すぎて、まともに見れない。


 やっぱり、怒ってますか?


「まあね」


え!? 今、私、心の声がでてたっ!?


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