第12話 真実の愛とは、いったい…

 レイラおばさまの話がひととおり終わったので、ついに作戦を実行する時がきた。


「あの……、レイラおばさまに相談があるんです」


「なあに? アデルちゃん」


 ここで、ちらりと隣を見る。

 マルク、すごい汗だね。大丈夫……じゃないか。

 仕方がない。私、一人ですすめるわね。

 

 ということで、さっき聞いたばかりのヒロインを頭にイメージする。

 なりきるのよ、私! 

 

「今のお話を聞いて、私、耐えられなくて……。実は、私も真実の愛に気がついたんです!」


 レイラおばさまは、もともと大きな目を、さらにぱっちりと見開いた。

 そして、パンッと手をうって、たちあがった。


「まあ! アデルちゃん、ほんと?! 真実の愛だなんて、素敵!!」


 レイラおばさまは、すでに夢見る表情だ。

 よし、これなら、いけるわ!


「ユーリという立派な婚約者がいるのに申し訳ないんですが、気持ちがとめられなくて……」


「ええ、ええ。真実の愛とは、そういうものよ! こんな身近で真実の愛を見られるなんて、わくわくするわ!」

 

 ええっと、楽しまれているようですが、ちゃんと伝わってますか?

 私の婚約者は、あなたの息子ですよ。


 どうも、伝わってないような……。

 不安になって、再度、ダメ押しをする。


「ユーリという婚約者がいても、自分の気持ちがごまかせないんです。さっきのお芝居のように……」


 レイラおばさまは、両手をあわせて、目をきらきらさせている。


「ユーリのことなんて、この際どうでもいいのよ、アデルちゃん」


 えっ? そうなの!?


「真実の愛だもの。自分の気持ちに正直にならなきゃ。で、その相手はだれなの?!」


 隣を見る。もはや、完全に銅像のように固まっているマルク。


 こんなのが、真実の愛の相手だなんて、……嘘でも言いたくない。

 が、言わないと!


「マルク…、マルクです! そこのマルクです!」

と、やましさから連呼してしまった。


 レイラおばさまの動きが、しばし、とまった。

 そして、マルクを見る。

 マルクは、銅像のまま。


 すると、今度は、レイラおばさまが、残念そうな顔をして、私を見た。


「わかる、わかるわ。アデルちゃん」


 えっと、なにがでしょうか?


「真実の愛にあこがれて、見つけようとあせっているのね」


 いえ、まったく。


「それで、勘違いしてしまったのね。だって、…これは真実の愛ではないと思うわ」


 そう言うと、かわいそうなものを見る目で、銅像のままのマルクを見た。


 確かに、これはないわよね……。

 いやいや、なくても、ありにしないと!


「いえ、本当にそうなんです。私たち、近くにいすぎて、気づかなかったんです。友情だと思ってたら、ちがったんです! 愛です! 愛なんです! そう、真実の愛なんです!」


 もはや、意味もわからないけれど、とりあえず愛を連呼してみた。

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