第11話 公爵夫人レイラ
あれから一週間。
ついに、公爵夫人であり、マルクとユーリのお母様である、レイラおばさまとお茶をする日になった。
ここで、大事なポイントは、ユーリが絶対に留守である日を選ぶこと。
念には念を入れ、王太子のルイ兄様にも、それとなく確認した。
そして、ユーリが通訳も兼ねて、隣国との交渉に参加する日に決めた。
そして、レイラおばさまの大好物である、王宮御用達の老舗ケーキ屋さんの季節限定アップルパイも用意して、準備完了。
なんて、ぬかりのない私。やれば、できる子!
そして、公爵家に到着すると、レイラおばさまとマルクが出迎えてくれた。
「アデルちゃん、いらっしゃい! 今日は楽しみにしてたのよ」
と、笑顔でむかえてくれる、レイラおばさま。
ユーリと同じ金色の髪に澄んだ青い瞳。スタイルはすらりとしていて、年齢不詳。
とてつもない美人でありつつ、表情は可愛らしい。
ちなみに、マルクは全身がお父様の公爵様に似ている。
優しそうで、いわゆる親しみやすい外見だ。
「おじゃまします。今日は、お芝居のお話が聞きたくて、お時間をとっていただき、ありがとうございます。レイラおばさま」
「あらあら、レイラお母様でもいいのよ? もうすぐ、そうなるんだから。フフフ」
いえいえ、なりません。ならないために、がんばっています!
もちろん、レイラおばさまは大好きだから、本当なら義理のお母さまだなんて、ラッキーなんだけどね。
残念、息子が怖すぎる……。
応接間に案内されると、そこには、色々なお菓子が並べられている。
なんて美味しそう! ……じゃなくて、今日は大事な任務があるから、食べ物に気をとられてはならないわ!
そして、用意された席にすわる。隣にはマルクがすわった。
ええと、マルクさん? いくらなんでも緊張しすぎじゃない? なんだか、挙動不審だよ。
レイラおばさまの前で、真実の愛に目覚めた二人を演じないといけないのに、大丈夫なのかしら?
仕方がないわね。いざとなったら、一人芝居で乗り切るしかないわ。
私の眠れる女優魂を呼び起こすのよ!
「早速ですが、今、レイラおばさまが見に行っているお芝居って、どんなお話なんですか? 人気があるので、私も興味があって」
と、まずは直球で聞く。
レイラおばさまは、嬉しそうに、一気に話し出した。
「まずは、ヒロインが、家のために、政略結婚の相手と愛のない結婚をしようとするところから始まるの。この政略結婚の相手が、本当にひどい人でね。人を人とも思っていない、冷たい人なのよ!」
つまり、この政略結婚の相手は、ユーリになるのよね。
ここで、私は大きく、うんうんとうなずく。
人を人とも思ってない感じ、一緒だ。しょっぱなから、ものすごく、共感してしまうわね……。
「でも、ヒロインが健気なのよ。心優しくて、可憐で、そんな婚約者にも尽くそうと頑張るの。本当に何度見ても、序盤はかわいそうで、心が痛むわ」
そして、ここは私の役どころ。
が、心優しくて、可憐ね……うーん。
まあ、でも、自分は心優しいと思いたいし、可憐だと思ってくれる人もなかにはいるかもしれないわ。
ということで、ここまでは一緒。……ということにしておこう。
が、尽くそうとする? これは絶対にないわ。
ますます、ユーリが魔王化するもの。
ここは、舞台のキャラとは少しずれるけれど、まあいいか。
「そこで、庭師の男性、ヒーローが登場するの。困っているヒロインを静かに見守って、寡黙だけれど、とっても頼もしいのよ」
ええと、ここで、真実の愛の相手が登場ね。
ということは、これはマルクになるのよね……。
早速、マルクと照らし合わせてみる。マルクはおしゃべりではない。静かと言えば静かだわ。
今も、隣でマルクは固まったまま、一言もしゃべってはいない。
よし、これを寡黙ということにしよう!
そして、頼もしい……?
うーん、よくわからないけれど、まあ、お願いを聞いてくれて、この場にいるので、頼もしいということにしてしまおう。
うん、だいたい、レイラおばさまのお好きな舞台のキャラと同じじゃない。
いけるわ!
そんなことを考えている間にも、レイラおばさまの話は、どんどん熱をおびていった。
今や、ストーリーと離れ、お気に入りの役者さんの演技を褒めまくっている。
本当に素敵だとか、演技が素晴らしくて泣けるとか。
うん、この辺は、役に立たないわね。よって、省略。
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