第10話 真実の愛
「じゃあ、ぼくは、アデルと結婚したいって、誰に言えばいいの?」
「フッフッフッ……。その件については、私にいい考えがあるわ! その人に伝えるのが一番簡単で、一番効果がありそうな人よ。さあ、マルク、それは誰だと思う?」
と、質問に質問で返した私。
マルクは、首をひねって考えてから、言った。
「ええと……、やっぱり、本人であるユーリ兄さまかな……?」
私はため息をついた。
「マルク、それは一番ダメな人よ! 先にユーリにバレたら、絶対邪魔されるわ。政略だから、ユーリも私と婚約をしたいわけじゃないだろうけれど、こっちが先に解消したいなんて言ったら、絶対に、仕返しされるわよ。魔王ユーリだもの!」
と、つい、鼻息荒く反論してしまった私。
その勢いに押されたように、マルクが体をひく。
おっと、いけない。
王女として、……というよりも、令嬢として品がなかったわね。反省、反省。
私は真面目な顔になって、改めて、マルクに言った。
「誰に一番に言うか、それは、レイラおばさまよ! そう、あなたたちのお母様であり公爵夫人! ほら、一番伝えやすいし、一番効果がありそうじゃない?」
「え、お母様……!? うーん、どうかな……?」
と、歯切れが悪いマルク。
「いい、マルク。レイラおばさまは、舞台が大好きでしょ。しかも、恋愛ものに目がない」
「まあね、しょっちゅう見に行ってる」
「しかも、今、レイラおばさまは、政略結婚しそうになっていたヒロインが、真実の愛にめざめて、隣国へ逃避行する舞台にはまって、通い詰めているらしいわ」
「え? そうなの?」
「そう、真実の愛ってところを除くと、ほぼ、未来の私じゃない? ということで、真実の愛作戦、スタートさせます!」
「その作戦名、ちょっとひくんだけど……」
「ひいてる場合じゃないわ、マルク。私たち、真実の愛にめざめた二人にならないといけないんだから」
マルクが、顔をしかめた。
「真実の愛って、よくわからないんだけど?」
「それなら大丈夫よ、マルク。私、想像して、多分、こんな感じかなって、見出したから。真実の愛を!」
「え、ほんとに……?」
と、不安そうに聞くマルク。
「レイラおばさまの見ている劇を調べたんだけど、真実の愛に目覚めた二人は、すべてを捨てて、隣国へ逃げる。そこでの暮らしは大変だけれど、二人でいられるだけで、天国にいるみたいに幸せなんですって」
「天国……?」
「そう、天国よ! マルクも想像してみてよ。例えば、モリリオン先生の本にうずもれ、どれだけでも読んでいいっていう、まさに読み放題の状態を。どう?」
「……うん、すごい幸せ」
「天国っぽくない?」
「……うん、そうかも」
「だから、頭の中でね、モリリオン先生の本、読み放題=真実の愛に変換するの」
「……うん、なんかいけそうな気がしてきた」
「よし! 私もリッカ先生の本、読み放題の状態を想像するわ。で、次にすること。マルクには、できるだけ早く、レイラおばさまと、私たち二人とのお茶の時間をとってもらいたいの」
「え、そこで言うの?」
「そうよ、早くしないと、話がすすまないでしょ」
「いきなり誘って、変に思われないかな?」
「レイラおばさまには、舞台の話が聞きたいって、私が言ってたって伝えて。本と舞台の違いはあっても、物語を愛し、語りたい気持ちは同じだから、大丈夫よ。マルクだって、モリリオン先生の本の話を聞かせてって言ったら、嬉しいでしょう?」
「うん、確かに、そうかも!」
「それで、レイラおばさまに舞台の真実の愛を散々語ってもらった後に、私たちが真実の愛にめざめたことを告白するの! どう、この完璧な作戦!」
「なんか、いいと思う! すごいね、アデル!」
「そうでしょう! 真実の愛=好きな本を読み放題よ。忘れないで、マルク!」
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