第8話 第一王女カレナ

 残念なことに、私とユーリは、去年、正式に婚約した。

 その時の状況を少し説明したいと思う。


 前世は庶民だけれど、王女として生きてきたから、政略結婚は当たり前。それはわかってる。

 そうは言っても、魔王は嫌。相手は、せめて人間であって欲しい!


 だから、私はなりふり構わず家族に訴えたのよね。

「ユーリと婚約したくない」って。

 

 でも、家族は本気にしなかった。


 なぜなら、ユーリが言ったから。

「アデルは恥ずかしがってるんです。わかるよ。そういう年頃だからね」って。

 

 私よりも、魔王ユーリの言葉に、みんなが納得。

 さらに、私に生暖かい笑顔までむけてくる始末。


 簡単にまるめこまれすぎよ! と、何度、心の中で叫んだかわからない。

 

 が、第一王女のカレナ姉様だけは、ユーリの裏を感じ取ったよう。


「完璧すぎて、うさんくさい」

「アデルを見る目が気に入らない」

と、言い始めた。


 カレナ姉様は、見た目は、はかなげな美人だけれど、中身は全然違う。

 直感を大事にする、野性味あふれる、たくましいタイプ。

 ギャップがすごい。


 ということで、私は、カレナ姉様に協力を求めた。


「大丈夫よ、アデル。すべて、このお姉様に任せておきなさい!」


 そう言って、まず、兄である王太子のルイ兄様に話をしてくれた。


「アデルが本気で嫌がっていることがわかれば、きっとすぐに動いてくれるわよ。私同様、アデルを溺愛してるから」


が、結果は…。


「アデルがお嫁にいくのは、ぼくも嫌だよ。でもね、悔しいけれど、ユーリほど優秀な男は他に見当たらないんだ。かわいいアデルを託すなら、やはり、ユーリぐらいじゃないと、ぼくも安心できなくてね」


 そう、ルイ兄様は、すでに、ユーリに取り込まれていた。

 

「大丈夫よ、アデル。ユーリの化けの皮をはいで、アデルを守ってあげるからね」

と、カレナ姉様は、自分の胸をポーンと力強くたたいてみせた。


 なんて、頼もしい! 

 持つべきものは、野性味あふれる姉だと実感したわ。


 が、そのわずか一週間後だったわね。

 カレナ姉様のシンガロ国への輿入れが決まったのは……。


 その知らせを聞くやいなや、部屋に突撃した私に、カレナ姉様はこう言った。


「あのね、アデル。よく考えたのだけれど、ユーリもそう悪くはないと思うのよね」


 はい? 何を言ってるんですか?


「だって、ユーリは、今回のことでは、すごく動いてくれたみたい。おかげで、ようやく、ミカル様と結婚できるようになったもの」

と、甘ったるい笑みを浮かべたカレナ姉様。


 カレナ姉様は、婚約者である、シンガロ国の王太子であるミカル様にベタボレ。

 

 だが、シンガロ国の内輪のごたごたで、婚姻がのびにのびて、暗礁にのりあげていた。

 が、ユーリの働きで、急遽、婚姻が決まったらしい。

 

 他国のごたごたまで片づけてしまうなんて。

 匂う。やっぱり匂うわよね、魔王臭が……。


「だから、アデル。ユーリとちゃんと向き合ってみなさい。私はいいと思うわよ」


 カレナ姉様、敗れたり。


 こうして、カレナ姉様は、早々に、シンガロ国へと旅立っていった。

 

 まあ、この前みたいに、シンガロ国の人気の本を、送ってきてくれるからいいんだけどね……。


 ということで、婚約を解消するためには、自分でどうにかするしかない。

 魔王に支配されず、のびのび、本を読む生活をおくるため、がんばろう、私!

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