第6話 マカロン

 私は、まっさきに大好きなチョコレートのマカロンを口にいれた。


「うわあ、このマカロン、美味しい!」


 濃厚なチョコレートがたまらないわ…。


「喜んでくれて、うれしいよ、アデル。でも、その大声は、王女として品がないよ」


「はーい」

と、適当に返事をしておく。


 至福のマカロンを口にしている私には、いつものユーリのお小言も、全く気にならないの。フフフ!


 となりのマルクを見れば、ストロベリーのマカロンを手に、もともとタレ目な目が、喜びでさらにたれ下がっている。


 私たち二人は、夢中で、食べていたけれど、さすがに、おなかが満たされてきた。

 なので、目の前で、ゆったりと紅茶を飲んでいるユーリに聞いてみた。


「ユーリ、このマカロン、どこで買ったの?」


「フローリアンだよ」


「えっ!? フローリアン?」

驚いた声をあげたマルク。


「どうかしたの?」

と、聞いてみる。


「フローリアンは、できたばかりのお店で、評判になっているんだ。売切れたら終わりで予約もダメ。だから、毎朝、早くから並ばないと買えないんだって。でも、領地とは全く違う場所にあるはずなんだけど…」

と、マルクがいぶかしげに言った。


 そう、マルクは、甘いもののお店については、驚くほどの情報通だ。


「へえ。じゃあ、並んで買ってきてくれたんだ」

しれっと、他人事のように言うユーリ。


 え? 確か、私たちにお土産って言わなかった?

 自分で買ったんじゃないの?

 

「それなら、だれが買ってきてくれたの? あっ、もしかして女性?」

と、聞いてみた。


「まさか、アデルに他の女性が買ってきたものなんて、渡さないよ。頼んでないけど、並んで買ってきてくれる人なんて、他にも沢山いるからね。……ねえ、アデル。もしかして、妬いた?」

と、艶やかな笑みをうかべたユーリ。


 いえいえ、まったく。

 他に女性がいれば、簡単に婚約解消できるなあと、期待しただけ。


 ふと、となりを見れば、マカロンを手にしたまま、マルクが固まっている。


「どうしたの、マルク?」


 マルクは、悲しい顔をして、ぼそっとつぶやいた。


「このマカロン、誰かの犠牲の上に、ぼくは食べられているんだなって、思って……。だって、きっと、ユーリ兄様に弱みをにぎられている人の誰かが買ってきたんでしょ? なんだか、悲しくなっちゃって……」


 確かに!

 しかし、マカロンに罪はないのだよ。マルクくん!


「マルク、美味しく食べてしまうことが、マカロンのために、ひいては、その気の毒な人のためになるのよ! こうなったら、美味しく、一緒にたいらげましょう」


 固まっていたマルクもうなずき、二人して、また、マカロンを食べ始めた。


 目の前から、クスッと笑う声。


「ほんと、ばか…かわいいよね、アデルは。今日の仕事でも、かわいくない馬鹿ばっかりで、つまんなかったけど、ほんと、癒されるよね」

と、本性丸出しの腹黒い言葉が聞こえてきた。


ここに、魔王がいます。

みなさん、見た目に騙されないで!


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