第5話 お茶の時間

 22歳になったユーリは、更に背が高くなり、ちびっこの私としては、妬ましいじゃなくて、……うらやましい限り。

 

 しかも、天使みたいだった美少年は、成長とともに、大人っぽさも加わり、とんでもない美貌の青年になった。 

 

 そして、さらっさらの金色の髪は、今日もまぶしい。

 まぶしすぎて、直視できない。だから、さっさと目をそらし、マルクに小声で苦情を言った。


「ちょっと、マルク! ユーリがなんでいるの? 今日は領地に行ってるんじゃなかったの?」


「うーん、お母様に聞いたら、そう言ってたんだけど……」

と、ばつが悪そうに答えたマルク。


 マルクに確認したのは失敗だったわね。

 せっかくユーリの留守をねらって、遊びに来たのに。 


「アデル。僕の予定は、僕に聞いて? 婚約者なのに寂しいんだけど」

と、ユーリが、全く寂しそうにない鋭い視線を私に向けた。


 その咎めるような視線にひるんだものの、とりあえず、疑問をぶつける。


「領地で仕事じゃなかったの? あそこ、遠いでしょ」


「そうだね。でも、今日は、近場の領地の視察に変更したんだ。なーんか、アデルが来る予感がして?」

と、妖しい笑みを浮かべたユーリ。


 こわっ! 何、その予感……。 

 なんだか、獲物になったような気分だわ。


「そうだ、お土産があるんだ。ふたりに」


 ユーリがそう言うと、メイドさんたちが、お皿に盛った色とりどりのマカロンを運んできてくれた。

 同時に、三人分のお茶の用意も素早く整えられる。


「さあ、二人とも、すわって」

と、優しく促すユーリ。

 

 私は、引き寄せられるように、椅子に座った。

 

 そう、私は甘いものに目がない。

 しかも、マカロンは大、大、大好物なのよね!

 

 私の至福の時間は、好きな本を読み、甘いものを食べること。


 心の奥底では、危険なエラー音がなっている。

 が、このきらびやかなマカロンの前では、あらがえない。


 隣をみると、マルクも私と同じ状態のよう。

 

 私たち二人は、本を読んで、甘いものを食べ、あまり動きたくないという、似た性質を持つ生き物。


 それに、悔しいけれど、ユーリが買ってきたものに、絶対はずれはない。

 なかなか手に入りにくい美味しいものを食べさせてくれる。


 こうして、甘いものに目がない、胃袋をつかまれた獲物二人と、冷静で美しい捕食者とのお茶の時間がはじまった。



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