第3話 マルクに会う

※ 今回も幼少期の続きです。


 ユーリとの二度目の再会はすぐにやってきた。


 今度は、私がお母様につれられて、公爵家に遊びに行った。

 でも、8歳年上のユーリはまだ学校から帰ってきていなかった。


 ここで、登場してきたのが、ユーリの弟であり、私より1歳年上のマルク。

 おっとりした感じでユーリとは全く違う印象。


 そんなマルクに、私は出会った瞬間、驚いた。

 だって、私の好きな本をかかえていたんだもの!


「ねえ、その本、好きなの?」

 

 私が聞くと、マルクははずかしそうに言った。


「大好き」


「私も! 大好き!」

 

 嬉しくて大きな声でそう言うと、マルクも嬉しそうに微笑み返してきた。


 本が好きな子に悪い子はいない。

 しかも、同じ本が好きなら尚更よね!


 私は、あっという間に、マルクとうちとけた。


 テーブルにマルクの絵本をひろげて、自分の好きなところを説明していく。

 この世界に生まれて、はじめて、本を語り合う楽しみができたことに、私はうかれていた。


「あらあら、すぐに仲良くなったわね。年も近いし、これから学校で一緒になるから、安心だわね」


 お母様と公爵夫人が優雅にお茶をのみながら、談笑しているのが聞こえる。


「ただいまかえりました」

と、ユーリが帰ってきた。


 その姿は、まわりが、ぱっと明るくなるほど、きらきらしていて、まぶしい……。

 そして、音もなく(天使だから足音がないのかしら?)優雅に近づいてきた。


「王妃様、アデル王女様、ようこそいらっしゃいました」

と、華麗なおじぎをみせたユーリ。


 見た目だけで言えば、本当に天使よね。


「ユーリ。アデルちゃんとマルク、もう、すっかり仲良くなったのよ。ほら、ふたりとも、本がすきでしょう?」


 公爵夫人がにこにこしながら、ユーリに説明した。


「へえ」

と、冷たくて小さな声が聞こえた。


 え……? 


 今、ユーリが発したように思えたけれど、聞き間違いかしら?

 だって、天使に似つかわしくない声だもの。


 ユーリは、私とマルクに近づいてくると、私たちを見下ろすように立った。

 美しい笑顔だけれど、やっぱり、怖い……。


 ふと、マルクを見ると、マルクがふるえている。

 私の体もぶるっとふるえた。


「ねえ、ふたりでどんな本を読んでるの? 見せて?」


 そう言った時には、マルクが強くにぎっていたはずの本は、ユーリの手に移っていた。

 

 いつのまに? もしかして、魔力でも使った? 

 いやいや、こんなことで、いくらなんでも、魔力は使わないよね?


 じゃあ、うばったの? 馬鹿力? 

 どっちにしても、こわい……。


 ユーリは、きれいな笑みを浮かべて、私に言った。


「ひどいなあ。ぼく、何もしてないよ。ねえ、マルク?」


 私はとっさに口を手でおさえて、マルクを見た。


(もしや、私、今、心の声がでてた?)

と、目で問いかけてみる。


 マルクには通じたらしく、おびえた顔でうなずいた。


「ククッ。ふたりとも、ほんと、ばか…かわいいよねぇ」


 ばか? この人、今、ばかって言った?


 天使どころか、今や、背中に黒い羽がはえているように見えるユーリ。

 私は、きっと、にらみつけた。


「アデル王女様って、おもしろいね。ねえ、アデルって呼んでいい?」


「いや」


「ありがとう、アデル。ぼくのことはユーリって呼んでね」


 こわい! 話が全然つうじない!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る