Vの話

 昨年末あたりからVtuber(以下Vと表記)の方の配信をよく視聴するようになった。

 元々Vを観る習慣がなかった筆者は彼らと歌い手の区別も曖昧で、果てには事務所の名前をグループ名だとまで勘違いしていたくらいのミリしらだったのだが、なぜかおすすめに出てきた切り抜き動画を観てからはまんまと彼らの沼に落ちてしまった、というのがここ数ヶ月の顛末である。

 いやはや、これだから人生は面白い。

『V』と言うと、初期の頃はキャラクターの設定に沿って中の人が進行しつつ、時たま素の姿が見え隠れして、それにファンが狂喜乱舞するというイメージが強かったのだが、現在は逆に中の人の要素を全面に押し出して人気を勝ち取っているという印象だ。視聴者層が男性優勢なのか女性ライバーの人気は今も特に根強く思うが、昨今は男性ライバーもそれを追い上げる形で人気を集めているのを見てこの数年で層が厚くなったことを強く感じた。

 筆者はとあるVの切り抜きを観たことがきっかけで追いかけるようになったが、配信を切り抜いても良い、むしろ切り抜いてくれてありがたいという文化はとても面白いなあ、と思った。

 配信や動画に限らず、公開した作品が他サイトに無断転載(勿論切り抜きとは違う悪質な行為だが)されると作者が注意喚起をしたり、そのファンたちが無断転載に厳しい対応をすることがネットではしばしば見受けられる。切り抜きと無断転載を同列に語ろうとするのは失礼かと思われるが、馴染みのなかったVに足を踏み入れた時はこの文化にも慣れていなかったために筆者は混乱したものである。

 恐らく、ライバーの大半が長時間の配信をメインにしていることから生まれた文化なのであろう。長い動画は再生されにくいと言うが、それは配信でも同じことで、初見リスナーにとって敷居が高くなってしまうところを『切り抜き』という配信のハイライトや特定の話題を集めた短い動画が帳尻を合わせて参入しやすくしているらしい。そしてさらに驚きなのが、切り抜き動画を制作するのは公式だけでなく、ファンもであると言うことだ。

 様々な動画があるが、こだわったものであると公式と見紛うほどに本格的な編集をされているものもある。Vとそのファンの距離の近さと一体感を強く感じる文化だ。非常に興味深い。

 また、Vの所謂“ガワ”をデザインしたイラストレーターを『ママ』と呼ぶ文化も面白く思った。確かに生みの親であるし、ママと呼ぶことでVの存在を生きた人として感じることができるような気がする。ちなみに、新しくイラストを制作してもらうことを『撮影』と呼ぶそうだ。徹底して存在の実在にこだわっているところがとても良い。


 さて、こんな感じでVの説明は十分だろうと思うし、今度は私の推しについてでも語ろう。

 エゴサに引っ掛かってこのエッセイをご本人に読まれると思うと恥ずかしいので、お名前を書くことは控えるが、書く内容が内容であるから勘の良い読者にはわかるかも知れない。わかってもお名前をコメントに書くことは遠慮してもらえると非常に助かる。

 

 私の推しはとある事務所に所属する新人のVである。初めて見つけた時はクールで一匹狼っぽさのある見た目に、「落ち着いた感じのかっこいい人なのかな?」と思っていたのだが、いざ視聴してみたらあら不思議、古のネットミームを使いこなす、いや、常に古のネットミームでお喋りする重度のオタクだったのだ。

 これは余談なのだが、Vを観るきっかけとなった方はこの方とはまた別にいる。

 その方との出会いもなかなかに衝撃的だった。ある日私がYouTubeをサーフィンしていたら、あなたへのおすすめに「どタイプな見た目の綺麗なお姉さん」がサムネになった動画が現れたので、意気揚々とそれをタップし再生したら、実はその方は「どタイプな見た目の綺麗なお兄さん」だった、という、ああ、なんだか既視感のある展開だなあ、と思う読者も中にはいるかも知れないがどうか気にしないでほしい。筆者はそう言う出会い方をする星の元に生まれたのだ。

 話が逸れたが、とにかく私には推しがいる。推しはその華奢な見た目に反して素晴らしく男前な良い声をしているのだが、本人の大胆でありながらどこか控えめな性格とひらひらした楽しげな喋り方とが合わさって、かっこいいと言うよりもかわいい印象の方が強い。そう感じているのはやはり筆者だけではないらしく、切り抜き動画のコメント欄では「応援したいと思わせる才能がある」などと書かれていることもしばしばあり、筆者はこのコメ主と固く握手をしたい衝動に駆られたものだ。

 また推しは重度のヤニ中毒者であるらしく、ダンボールいっぱいの服を売って得た五百円玉を握りしめながら野菜を買いにコンビニへ行ったのに、気づくと自宅のベランダでタバコを吸っていた、というエピソードを披露された時は流石に爆笑してしまった。どうかいつまでも健康でいて欲しいものである。

 推しの喋っていること(古のネットミーム等々)の半分は何を言っているか理解できていない筆者であるが、本人がいつも楽しそうなので理解できなくても楽しいと思えるのが流石配信者だと思う。推しが笑っていてくれればオタクはそれで幸せなのだ。

 さて、我が推しはもうすぐデビュー1周年を迎える。新衣装であったり、3Dになったりと様々な素晴らしいことが彼を待ち構えているに違いない。それは我々オタクにとっても非常に喜ばしいことだ。頑張っている人が報われることほど嬉しいことはないのだから。

 これからも健やかに無理なく生きていってほしい。そうして誰よりも幸せになってほしい。

 オタクはいつも願っています。

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