檸檬の棘

サカツ

 クラスのような閉鎖的な空間で誰からも好かれるように生きていくなんて僕にはできない。

 結局僕は、孤立する。胸が絶望と不安に締め付けられる。いや、これは強がりと言われても、僕が望んだことだ。

 一人の方が楽なのは話さなくていいから、分かってもらおうなんて努力いらないから。



隼人は高校の同級生で、容姿端麗、成績優秀。それでいて、人柄も良くて周囲からの人望も厚かった。

 そんな隼人が学校の屋上から飛び降りて、投身自殺を図った。

隼人の生前の人柄や遺書も残っていなかった点から、事件性も疑われ始め、警察により捜査が進められていた。

 でも僕は分かったような気がしていた。なぜ隼人が投身自殺を図ったのか......。

 それは、遡ること隼人が自殺を図った二週間前の出来事。

 僕はいつものごとく隼人と学校から家に帰っていると、突然隼人がこんなことを聞いた。

『おまえ、檸檬の棘ってどんな形か知ってるか?』

『なんだよ急に、そんなに気にしたこともない。』

『そうだよな.......』

そう言う隼人の横顔はクラスで見せるあの屈託のない笑顔とは真逆の、あの時だけの寂しさを見せた。

 僕は家に着いても隼人の初めて見せた表情が脳裏にこびりつき、どうしても気になって

『檸檬の棘』とインターネットで検索した。

 すると檸檬の幹には動物から身を守るために鋭い棘があり、棘のない檸檬の品種があるくらいらしい。

 僕は檸檬の時に関する情報を集めるうちにあくまで仮説なのだが、隼人が僕に伝えたかったことは、『檸檬のように人々から愛され、利用されているのは檸檬の実の部分だけであり、人があまり知らない幹に多くの棘があるように、隼人には周りが気づかないうちに学校や世の中に不信感や嫌悪感を抱いている』ということだ。

 葉、幹、実、それらが全て欠かすことのできない要素であるにもかかわらず、人は自分たちにとって都合の良い部分しか見ようとしないため、相手自身もその一面しか見せることができない。

『僕の返答次第では隼人生きてたのかもな』

と思うと同時に『やっぱり誰からも好かれるように生きていくなんて無理』だと強く思った。



 結局僕は、孤立する。胸が絶望して不安に締め付けられる。いや、これは強がりと言われても、僕が望んだことだ。

 一人の方が楽なのは話さなくていいから、分かったもらおうなんて努力いらないから。







 

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檸檬の棘 サカツ @cheeese-1

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