第7話 スーツの着心地

「そんな緊張しなくていいのよ、ルウリーシア。私は、あなた達を地球まで導くだけで、さほど大それた人物じゃないのだから」


 ルウリーシアの緊張ぶりを解そうと試みるミリディア。


「あっ、はい……」


(隊長さんが、思ったより気さくな感じの女性で良かった! それだけでも、この慣れない環境では、随分と救われる!)


 初対面の挨拶で、発声練習の成果を発揮出来ず焦ったものの、ミリディアの言葉に少しずつ落ち着きを取り戻してゆくルウリーシア。


「もう目にしていたかも知れないけど、この宇宙船で隊員達は、お揃いのウェアを着る事になっているの。このスーツは、身体にフィットして地球の重力に慣れやすい仕様になっているわ。ルウリーシア、まず、この計量装置に入って」


(計量装置……って?)


 疑問につつ、ミリディアの指示通り、大きな箱型の計量装置の内部に入った。

 とほぼ同時に、身長、体重、バスト、ウエストなどが表示され、目を見張るスピードで、丁度良いサイズのスーツや下着が、ルウリーシアの目の前に揃えられた。


(メジャーやスケール無しで計測されてしまった! しかも、すぐに、私のサイズの衣料が一揃い出て来るなんて!)


 アクエリーシア星には無かったシステムに驚いたルウリーシア。


「それらに着替えてから、着心地を伝えて、ルウリーシア」


(着替えるにしても、下着からなのに、隊長さんの目の前で? ここから出て、さっきの案内人に尋ねるべき?)


 疑問に感じると、突如、試着室のような狭い個室で周りを仕切られた中にいたルウリーシア。


「自動装着装置の中に入ってもらってもいいけど、地球では手動だから、今のうちに慣れておかないとね」


(自動装着装置……? えっ、他の星の人達って、普段は、着替える時に自動装着装置のお世話になっている感じなの? もしかして、アクエリーシア星は、他の星よりも原始的で、地球に近いレベルだったとか……?)


「アクエリーシア星では、この宇宙船の中ほどオートメーション化されていないです。だから、着替えは、手動で慣れていたので、大丈夫です」


 戸惑いながらも、無難そうな返事をしたルウリーシア。


(着替えを自動でする装置の中に入るなんて、その段階の映像が記録されていたりなんかしたらと考えると、むしろ、その方が抵抗有るくらい。そういう面だけは、地球とアクエリーシア星のレベルが同じで良かった! この分だと、他の星系から来た人達に比べて、地球に着いても違和感無いくらいかも知れない)


 地球が順応しやすい状況かも知れない事に救いを見出したルウリーシア。


「スーツは、どう? 着てみて違和感とか無い?」


(違和感も何も……今までのに比べたら違和感しかないのだけど! 鏡に映っている自分のスーツ姿は見慣れないし、身体のラインにピッタリくっ付き過ぎていて、なんだか裸を見られているようで恥ずかしい……男の人はともかく、女の人達って、このスーツ着ていて、そういう風に感じないのかな? それとも、アクエリーシア星で、締め付けない服に慣れていたから、私がヘンに意識し過ぎている?)


「あの……違和感というより、この身体のライン丸出しのスーツが、恥ずかし過ぎるんですけど……」


 身体を捻ってフィット感を確認し、溜め息混じりにルウリーシアが訴えると、ミリディアが爆笑した。


「あっ、笑ってごめんなさい。確かにね、私も、初めて装着した時は、ルウリーシアと同じ気持ちだったわ。でも、いつの間にか慣れたわ。何事も慣れよ!」


(慣れ……って。それは、ミリディアのように、メリハリのあるプロポーションの持ち主だから言える事なんだと思う)


 ミリディアの言葉に疑問に感じたルウリーシア。


「私のような貧弱な体形だと、このスーツは、他の女の人達と見比べられそうで、イヤです!」


「なるほどね、今までの着ていたようなアクエリーシア星の衣服だと、体形カバーには持って来いだったわね。でも、地球では、シェイプシフトは禁じられているし……」


(えっ、シェイプシフト禁止……? アクエリーシア星では、基本形はこの姿だけど、望めばいつでも、自分のなりたい姿に変身する事が出来ていた。地球では、それも認められないの?)

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