第6話 隊長と対面

 宇宙船の透明な後部から見えているのは、宝石のように美しい水色の星、アクエリーシア。

 生まれ育った母星が、どんどん遠ざかって行くのを物憂げな表情で一人見つめているルウリーシア。


(誰もが幸せに、何一つ不自由無く暮らしていたあの星で、私達もずっと当たり前に生きていくと思っていたのに……)


 いつの間にか、アクエリーシア星が、水瓶座の他の星々と同じように点のようになり、やがて暗闇の向こうに消え去った。


(私とライが過ごした日々も、まるで消え行ってしまうような寂しい感覚。何かを失うって、こんなに切ない気持ちになるなんて、思ってもいなかった……)


 消失後も尚、アクエリーシア星が見えていた方向を名残惜し気に見続けるルウリーシア。


(アクエリーシアが見えなくなって、今度は、私にとって、他の誰よりも大切なライまでが、私の前から遠ざかって行く事になってしまう……)


 少し前まで、遠ざかるアクエリーシア星を共に見送っていたライリーシアは、今、フロンティア活動の幹部メンバー達に呼ばれ、一人だけ先に連れて行かれた。


(同じ星から、たった二人だけで参加しているんだから、私も一緒に話を聞かせてくれてもいいのに。それでなくても、これだけ十分過ぎるくらい寂しさを感じている時に、最初の段階から二人でいるのを邪魔してこなくても……)


 早々に、宇宙船幹部達のやり方に不満を覚えたルウリーシア。


「次は君の番だよ、ルウ」


(ライ、けっこう時間がかかったわね。どうだった?)

 

 戻る前と変わらない様子のライリーシアの顔を見て、ホッとした笑顔を向けたルウリーシア。


(……あれっ? ライ?)


 すれ違う時に送ったテレパシーに、ライリーシアからの応答は無かった。


(どうして、ライ……? もしかして、テレパシー、届いていない? その衣服に着替えてしまったから?)


 戻った時点で、アクエリーシア星で着ていた衣服から、この宇宙船に乗船している他の乗組員達と同じスーツに着替えていたライリーシア。


(これからは、体のラインにフィットするスーツに着替えなくてはならないのね。ライには似合っているけど、私にはどうかな? 見た目的にも、生地的にも、私はそういうのより、このアクエリーシア星の衣類のように、ゆったりとラクで肌触りの良い方が断然好きだから、ここでもこれをずっと着ていたかったのに……)


 ルウリーシアは、迎えに来た男性に誘導されていた。

 アクエリーシア星人以外の人々と接触するのは初めての事で、緊張するルウリーシア。

 

(この人、ずっと表情を変える事無くロボットのように仏頂面。でも、さっき戻って来た時のライの表情は、テレパシーで確認出来なくても、特にこわばっている様子は見られなかったから、そんなにビクつく事は無いかな?)


 二人は、宇宙船の上部へ向かっていた。

 大きなドーム状の最高部には最も重要な役割を担う船長室、いくつもの会議室、広々とした訓練会場などが配置されている。

 その見取り図をライリーシアが呼ばれている時、何気なく目にしていたルウリーシア。

 案内されたのは、会議室の一つだった。

 

(私は船長室に興味が有ったのだけど、呼ばれた場所は狭そうな会議室でガッカリ。ライが呼ばれたのも、ここだったのかな? 中には、どれくらいの人達がどんな感じで待ち受けているのだろう? 何だか、急にドキドキしてきた!)


 誘導した男性は入口を示し、ドアが開いたのを確認後、ライリーシアと入口の人物に向かい頭を少し下げ、退出した。

 恐る恐る一人で、会議室に足を踏み入れたライリーシア。


「アクエリーシア星からのもう1人のフロンティア隊員、ルウリーシアね。初めまして、地球第3次フロンティア隊長のミリディアよ、よろしく」


 誘導してくれた人のような不愛想な男性の異星人が何人も待っているのを予想していたが、意外にも、女神のように美しい女性一人で微笑んで迎えてきた。

 どこかに翻訳装置が有るらしく、アクエリーシア星の言語で話され、安心したルウリーシア。


(私、アクエリーシア星の言葉しか知らないから、他の星の人達と交流は、テレパシーか、その翻訳装置を貰えないと無理。なるべく早く欲しいけど、いつ配布されるのかな?)


 ミリディアが保持している翻訳装置はどの部分に付着しているのか、落ち着きなく見回すルウリーシア。

 

(隊長さんも、ライが着ていたような身体にフィットするスーツを着ているんだけど、何というのか、胸の辺りのボリューム感が全然私のと違う! その部分だけ妙に厚みが有るというのか、盛り上がりを見せていて、ついスーツの中の身体はどうなっているのだろうと想像して、女同士なんだけど、目のやり場に困ってしまう!)


 ふと、既にミリディアと対面していたかも知れないライリーシアの事を考えた。


(ライは、こんな女性を目の前にして、ドキドキしなかったのかな? 今まで見慣れて来た私とは、あまりにも体形が違い過ぎるから、きっと、気になって見入ってしまっていたかも知れない……そんな事よりも、私の方も自己紹介しなきゃ!)


「あっ、あの……初めまして、る、ルウリーシアです。よろしく、おっ、お願いします」


(もうっ、どうして? あんなにアクエリーシア星で、ライと発声の練習した時には、普通に話せていたのに! いざ、他の人の前で実戦となると、緊張して、キレイに発声出来ない! 隊長さん相手に、第一印象から、ヘンな人物だと思われたはず!)


 ミリディアを前に、しどろもどろになってしまった事で、尚更アップセット状態に陥ったルウリーシア。

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