第32話 次代

俺は光が消えた気がしてそっと目を開けた。辺りを見渡すが何もない。今の光は一体なんだったんだ?


「悠加!大丈夫かい?なんともない?」


奏多さんがあせった表情でこちらに来た。でも本当に何もない。妖たちも何が起こったのか分からないから何人かは辺りを警戒しているようだった。


「特に何もないです。なんだったんでしょうあの光?」


「は、悠加、その腕にしがみついているのは何?」


「えっ?」


奏多さんに言われて自分の腕を確認するとトカゲみたいなのが巻き付いていた。俺はビックリして固まった。 


「「や、や、山神様ぁ‼︎‼︎」」


山神様の守り人たちの声が響いた。


「「「「え、ええええぇぇぇっ」」」」


次の瞬間その場にいた者たちの声が辺り一体に響いた。




今俺の腕に巻きついてるトカゲみたいなのが山神様?確かによくよく見てみるとトカゲにはないはずのツノが生えている。さっき見た山神様よりかは小さいツノ。でもなんで俺の腕に?


「小さくなっているがこれは山神様で間違いない。おそらく山神様がおっしゃられていた次代というのはこのお方のことだろう」


「その次代様がどうして悠加腕に巻きついているんだい?」


「それは分からん。山神様、どうぞこちらへ」


守り人の一人が俺から山神様を移動させようと手を出すと牙を剥き出して威嚇をした。


「や、山神様。ダメですよ、この者たちはもうすぐ帰るのですから共に行くことはできませんよ」


威嚇をされたからかすごく動揺しながら山神様をどうにか俺から離そうとしているが、守り人が何を言っても山神様は俺から離れようとしない。他の者たちもソワソワしながら様子を伺っている。


「山神様、俺たちはもうすぐ家に帰るんです。貴方のお家はここですから連れていく事はできませんよ」


そう言うと山神様は少し悲しそうに離れていくのかと思いきや今度は奏多さんに巻き付いた。


「えっ、ちょっと、まって?」


まさか自分に来るなんて思っていなかった奏多さんは急に巻き付いてきた山神様に動揺が隠せないようだった。


「山神様〜、お願いです。こっちに来て下さい〜」


守り人は泣きそうだし奏多さんは動揺して固まってしまったしどうすべきやら…


どうやって山神様を守り人に返そうかと考えていると山神様が巻き付いていた腕に先程までつけられていた痣とは違う何か紋様があることに気がついた。シャツをめくってみると


「……何これ」


それに気がついたもう一人の守り人が俺に近づいて俺の腕を確認してくる。何か知っているのかと思い守り人を見てみるとワナワナ震えていた。


「どうしたんだ?大丈夫か?」


俺が話しかけても反応がなくなってしまった。なのに急に俺の肩をガッと掴んで


「人間、いや悠加様。これは山神様の印。山神様が貴方について行くことを示されている」


「はい?」


「次代様はあなたを相当気に入られたようだ。故にその印をつけられたのであろう。次代様も今は小さいが神の端くれ。そう簡単にこれは破棄できない。もし無理にでも解こうとすれば何が起こることやら…」


俺は思わず山神様がいるであろう奏多さんの方を見る。山神様は楽しそうに奏多さんと守り人と戯れあっている。


「でも、山神様がこの山にいないと山が立ち行かないんじゃ?」


「まぁ、山から離れても山神様であることは変わりない。復興もせねばならんし構って差し上げることもできない。悠加様が良ければ山神様と一緒にいてくださらんか」


「…そんな軽い感じでいいんですか?」


「あの人はまだ生まれたての赤子のようなものなのだ。もし、できる事なら少しの間だけでも山に縛られず外の世界を見てきてほしいとは思う」


守り人はそう言うと戯れあっている三人を見てなんともいえない表情をしている。


「…分かりました。山神様が満足するまで付き合います。でも、いいんですか?守り人の貴方たちがついていなくても?」


「それに関してはあの人も神の端くれ。そうそう何かは起こるまい。それよりも心配なのは貴方だ」


「えっ、俺?」


「うむ、力が強いとその分狙われやすくなる。貴方を見ているとハラハラする。山神様もいるのだから今後は無茶を控えていただきたい」


そんなに無茶をしていただろうか。…自分の行動を振り返ってみると確かに今回は無茶を結構したかもしれない。俺は何も言えなくて黙っていると


「自覚があられるようでなによりです。貴方にも心配してくれる方々がいるでしょう。その者たちのためにも無茶はダメです」


「…はい、気をつけます」


返事をすると守り人は満足そうに微笑んだ。


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