第31話 終息

辺りを覆うような光が終息すると陣がきえていてそこにはツノの生えた人が立っていた。山神を守る妖の鬼のようなツノとは違って鹿のようなツノが生えている。


「山神様…」


あれが山神様。黒いナニカの時には全く感じられなかった神々しさのようなものが感じられる。見惚れていると次々と山神様を慕っていた妖達が山神様の元へ近づいていく。


「悠加、大丈夫かい?」


「あ、はい。途中で奏多さんが支えてくれなかったらここまで出来なかったと思います。ありがとうございました」


途中で奏多さんが支えてくれたままの体制でいた事に気が付いた。慌てて離れようとすると膝に力が入らなくて倒れそうになった所をまた支えられた。


「当分は立てなさそうだね」


「うぅ、すいません」


「立てるぐらいに回復させる事ができるけどどうする?」


そんな事ができるなんて聞いた事がない。でも、奏多さんが言うのだから俺がまだ知らないだけで回復方法があるのだろう。俺は奏多さんにこれ以上迷惑をかけられないと思い、ぜひお願いしますと頼んだ。


奏多さんから提案してきたのに驚いた顔をしたと思ったらイタズラをする前の子供みたいに笑って良いよ、でも怒らないでねと言われた。


俺が怒るような事なのだろうか。もしかしたら選択肢をミスったのかもしれないと思って断ろうとしたら


「んっ」


...奏多さんの顔が俺の目の前にある?俺は今何してる?奏多さんは何をしてる?キス?え?俺、奏多さんとキスしてる?!


現実に戻ってきて俺は奏多さんの胸を押すけれどさっきの解放のおかげで全然力が入らない。奏多さんは何度も角度を変えて俺にキスをしてくる。息ができなくてだんだん頭がふわふわしてきた。呼吸をしようと口を開いた瞬間、奏多さんの舌が入ってきた。


「んぅ、ん、んんっ」


俺は奏多さんのキスが気持ちよすぎて何が何だか分からなくなった。力も入らなくて奏多さんに縋り付くことしか出来ない。でも、奏多さんとキスする毎に暖かいものが流れて来ている気がする。


「んっ、これで大丈夫かな」


どのくらい時間が経ったのか分からないけど、奏多さんが俺から離れていくと少し寂しい気がした。


「どう?悠加、大丈夫?」


俺はだんだん正気に戻って来たけれど口をパクパクさせる事しか出来なかった。


「な、な、な、」


急に恥ずかしさが込み上げてきて俺は飛び退るように奏多さんから離れた。


「うん、ちゃんと立てるくらい回復したみたいだね。良かった、良かった」


一体何考えてるんだ??キスしたよな、俺。なんでケロッとしてるんだあの人は!?恥ずかしいのやらなんやらで訳が分からなくなって唸っていた俺に奏多さんは


「抱えてるより効果あったでしょう。それにお仕置きも兼ねてるから」


なんていい笑顔で言ってくる。でも、奏多さんを疑わなかった俺も十分悪い。もう何も言えなくてうーうー唸っていると


「人の子達、迷惑を掛けた。申し訳ない」


「いえ、元はと言えば人間のした事のせいで貴方が謝る必要はありません」


本当に山神様は悪くない。悪いのは火を放ったりした笹崎先輩であって山神様も被害者なのだ。


「そうか、ありがとう。そなたたちのおかげで私は本来の姿を取り戻し家族とも出会うことが出来た。本当に感謝する」


山神様は優しい。こんな事になったのは人のせいなのに恨み言さえ言ってもいいはずなのに何も言わない。


「そろそろ時間のようだ。お前たち、このような事になってしまって人間のことが許せまいと思うがどうか、負の感情に囚われず過ごしてくれ。どうか、次代のためにもよろしく頼む。それから人の子達よ、本当に感謝する。そなたたちの未来に幸あらんことを」


そう言って山神様は消えて行ってしまった。後に残された妖たちは皆思い思いに涙を流したりしている。俺は山神様が消えていった後を見ていると何かキラッと光るものを見つけた。


奏多さんの静止もほどほどに光もののところに進んでいく。そこに落ちていたのは緑色の綺麗な勾玉だった。導かれるように手を伸ばし拾う。


その時、目も開けられないほどの光が辺り周辺を照らした。俺が最後に見たのは奏多さんが焦ってこちらに手を伸ばしている姿だった。

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