第29話 作戦
この妖達にとって山神様は家族も同然なのだろう。俺ももし家族がおかしくなってしまったら全力で止める。もしくは楽にしてやりたいそう思う。
人間のせいでこんな事が起こってしまっているのに人間にしか頼む事が出来ない。そんな葛藤もあるだろう。でも、助けを求めて来ているのにそれを見捨てる事は俺には出来ない。
「いいよ」
「悠加!?」
「奏多さんはちょっと黙ってて下さい。でも、俺もギリギリだから失敗するかもしれない。それでもやる?」
「構わない。少しでも可能性があるなら私達はそれに賭けたい」
「分かった」
妖の話によると洞窟にまた封じ込める事には成功したらしい。後3日は持つとのことだ。そうして妖は待っていると言い去っていった。
奏多さんの顔を見ると物凄い厳しい顔をしていた。
「悠加」
「勝手な事してごめんなさい。無謀だって事は分かってます。でも、人間の不始末は人間がつけないといけないと思います。」
「それでも君がやる必要はない。僕だって」
「俺は一人でやるなんて言ってませんよ。一人より二人ですから。ちゃんと手を貸してくださいね、奏多さん」
そう言うと奏多さんは大きなため息をついて
「危険だと思ったらすぐに撤退するよ。僕は君の方が大事だから」
「はい」
良かった。奏多さんからはなんとか許可を得れたみたい。安心したからか視界が揺れる。思ってたより限界みたいだ。
「悠加!」
俺が次に起きた時にはまた奏多さんのベッドを占領していた。申し訳ない。痣が痛い。前よりも長引きそうだなと思う。もしかしたら俺が思っている以上に痣も広がっているかもしれない。確認しようと服をめくってみると思わず声が出た。見える範囲には痣が広がっている。見えないところはわからないけど多分痣は全身に広がっていると思う。
「よかった、目が覚めたのか」
「奏多さん」
ちょうど確認し終わった後に奏多さんが部屋に入ってきた。
「あの、俺…」
「何も言わなくてもいい。悠加がそう決めたのなら何も言わないよ。今はね」
「い、今は?」
「今君に言ったとして状況がどうこう変わるわけでもないし逆に無茶されても困る。だから今は何も言わない。今はね」
この状況が落ち着いた後が恐ろしくなった。でも、俺も譲る気はないから奏多さんの話を甘んじて受ける必要があると思う。奏多さんをみるといい笑顔だ。きっと真白は今ここにはいないだろう。だってこんなに背筋が凍るんだもの。絶対逃げてる。
「さ、体調が大丈夫そうならとりあえず目先の話をしようか」
「はい!」
俺たちは遅くまでどのようにあの黒いナニカを解放するか話し合った。解放するのは俺だけど多分ナニカは俺を狙ってくるはずだ。そこで俺のサポートと守りに奏多さんと真白が入る。妖たちには不測の事態の時のために近くで待機してもらうことにした。決行は二日後。それまでに俺は体調をできるだけ万全にする。そしてできる限り笹崎先輩の動向も注意しておくと言うことで話がついた。
今は真白が笹崎先輩の監視にあたっている。学校では俺ができる限り見ておくことになった。そういえばと思って奏多さんに学校では妖を見たことないと言う事を話した。そうするとあの学校には特殊な結界が貼ってあってそう簡単には妖は入ることができないらしい。だから真白も入れないのだと言っていた。もっと詳しくこうと思ったらなぜか早く寝るように言われてこの話は強制的に終わりになった。この話をしている時の奏多さんはどこか顔が心なしか引き攣っていたし、目も泳いでいた。多分あまり突っ込んでほしくない話なのだろう。余計に気になる。
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