第24話 悔しい


俺がこの痣を受けたのはただ巻き込まれただけだったという事か。


「奏多さん、一ついいですか?」


「なんだい?」


「着物を着た女のことが分かりません」


「僕の予想だけど仮にも神様だったわけだから人の形をして犯人探しをするくらいの理性が残っているのかもしれないね」


「理性が残って…」


神様は本当にあの山を愛していたんだと思う。そうでなければ黒いナニカになってまで犯人を探しに来るとは思えない。神様が受けた絶望はきっと俺には分からない。でも、俺は神様にあの黒いナニカのまま絶望したままでいて欲しくない。何故かそう思った。


「あの、奏多さん今の俺に黒いナニカになってしまった神様を解放することができると思いますか」


「…きっと、万全の状態であったならできたと思うよ。でも今の悠加では危険だ」


「どうしてですか」


「悠加のその痣、最初の頃より広がっているだろう?」


「それは…」


「その痣は目印であると同時に悠加の力も吸い取っている。多分神様に近づけば近づくほどその効力は強くなる。今回は一日熱を出した程度で済んだけれど、接触が長くなると命まで失いかねない。だから、今回は僕に任せて欲しい」


「でも、俺は…」


「悠加、今回ばかりは本当にダメだ。確かに解放をすることができる君が行くのが一番良いのは分かっている。でも、命を危険に晒してまで解放はしてほしくない」


「……分かりました」


奏多さんは少しホッとしたようだった。でも、俺は悔しい気持ちでいっぱいになった。俺が未熟で自分の身すら守れないから奏多さんに迷惑をかけていることも、未熟だから自分のしたいことを満足にできないことが本当に悔しい。


「悠加、君はねまだ鳥の雛なんだよ。今、きっと何もできなくて悔しいと思っているかもしれない。けれど君は今の君ができる事を精一杯してくれている。それだけで十分だ。だからそんな顔しないで」


奏多さんは優しすぎる。奏多さんだって黒いナニカとはいえ神様だった妖の相手をするのは相当危険なはずだ。だからせめて奏多さんが無事に怪我もなく帰って来てくれる事を今は祈るしかない。


俺は奏多さんに抱き着いた。


「奏多さん、俺はまだまだ奏多さんに教えてもらいたい事が沢山あるんです。だから絶対無事に帰ってきて下さい」


「うん。ちゃんと帰ってくるよ。約束する」


奏多さんは俺が落ち着くまでずっと背中を摩ってくれていた。

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