第23話 人

次に目が覚めた時には昨日の不調が嘘のように消え去っていた。今何時だろうとベッド周りを見渡しても時計がない。リビングの方に行ってみるとテーブルの上に俺のスマホと置き手紙があった。時間を確認して母さんからの連絡に返信をする。それから置き手紙を見た。お昼には帰るからゆっくり休んでと書いてある。ちょうど玄関の方から鍵の空く音が聞こえた。


「あれ、もしかして今起きたばっかり?」


「はい、あのありがとうございました」


「どういたしまして。体調はどう?」


「昨日のが嘘みたいに元気です」


「なら良かった。お腹は空いてる?ご飯でも食べながら話そうか」


奏多さんはそういうとキッチンへ向かった。手伝いを申し出たら体調が悪くなったらいけないから大人しくしてなさいそう言われて俺はソファに戻った。


奏多さんは手際よく料理をしているみたいだった。鼻歌が聞こえてくる。もしかしたら料理をするのが好きなのかもしれない。


そういえば真白はどこに行ったんだろ?まぁ、真白だから何かあっても大丈夫だと思うけど、変なことに巻き込まれてたりしたら心配だな。俺も変なものに目をつけられたみたいだ。スマホの画面に映った刺青は顔全体に広がっていた。これはきっと奏多さんにも見えているはずだ。顔に広がっているなら身体にも俺が見た時以上に広がっていると思う。きっとこれは俺を狙っている妖が施した印。どうして俺に印をつけたのかは分からない。そしてあの洞窟にはきっと黒いナニカがいる。あの着物をきた女が黒いナニカと関係があるのは確かだ。学校に行けばあの着物を着た女と出会うことができるだろうか。


「悠加、できたよ。色々気になるだろうけど一旦戻ってきてね」


「あ、ごめんなさい」


深く考え込んでいたみたいだ。料理を作り終わっているなんて全然気づかなかった。


「きっとまだ本調子ではないだろうから雑炊にしてみたよ」


「美味しそう…」


「ありがとう。さ、召し上がれ」


「いただきます」


一口食べると口の中に出汁の味が広がって美味しい。薄味だけれどとても美味しい!


「とても美味しいです!」


「うん。良かった。まだ食べれそうなら言ってね。まだあるから」


「はい!」


結局話をするどころか美味しすぎて夢中で食べてしまった。奏多さんにできない事は無いんじゃないだろうかと思う。


「ご飯も食べ終わった事だし話をしよう」


「はい」


俺は奏多さんに学校で見た着物の女の事、刺青の事、洞窟であったこと、夢で聞いた声について話した。


奏多さんは俺の話を聞いて少し考え込んでから口を開いた。


「悠加はこの辺であった山火事の事知ってる?」


「はい、確か3ヶ月前くらいにあった大きな山火事の事ですよね」


この山火事は俺も知っている。大規模で消火活動にとても時間がかかった事、周辺の人は避難生活を余儀なくしていた事。これはこの山火事が起こった周辺に住んでいた臣から聞いた。


「そう、その山火事どうやら自然的なものではなくどうやら人為的なものだったらしい」


「誰かが山に火をつけたって事ですか」


「うん。真白が調べた情報によるとその犯人がどうやら悠加の通っている学校の生徒みたいなんだ」


奏多さんから聞いた話によるとその山火事のせいで山の神様の祠も燃えてしまっていたらしい。山神様は元々は妖で信仰を得て神様になったから山火事のことが引き金になって黒いナニカになったというのが奏多さんの見解だった。山火事を起こしたものへの憎しみや怒りが強すぎて変貌しても山火事を起こした犯人を探していた所に力の強い俺が現れた。俺を取り込み力をつけた上で犯人に復讐しようとしているのだと思う。その目印につけられたのが俺に刻まれた痣だと奏多さんは続けた。


奏多さんの話を聞いて俺は思っていたより厄介なことに巻き込まれてしまったのかもしれない。

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