第21話 印
俺は奏多さんに言うのを忘れていた着物の女の事を真白に話した。
「すれちごただけか?話したりなんもしてへんのか」
「そんな事してない。でも声は聞こえた。なんて言ってるか分からなかったけど」
真白は俺の話を聞いて少し考え込んでからとりあえず奏多には俺から言うとくと言って奏多さんの所に帰って行った。
何か危険な妖だったのだろうか?でも、それなら真白がすぐに教えてくれるはずだ。奏多さんに報告に行ったと言う事はきっと緊急性の無いものかもしれない。また改めて奏多さんには説明しに行かないとそう思いながら俺は深い眠りに落ちていった。
『や.....み...た』
声が聞こえる
『やっ…見...た』
身体が動かない
『やっと見つけた』
「ヒュっゲホゲホゲホ」
一体何が起こって?咳が止まらない。ずっと咳をしてるうちに母さんが来た。咳が止まらない俺を見て背中を擦りながらゆっくり落ち着くように言ってくる。そうして落ち着いた頃には俺は咳をしすぎて疲れたからかそのまま眠りに落ちた。
一体アレはなんだったのか?夢なのか現実なのか、誰が言ったのか分からないけれどとんでもない妖に目を付けられている気がする。今日奏多さんの所に行こうと予定を決めながら学校へ行く準備をする。洗面所で鏡を見たら
「なんだ?これ?」
俺の顔の右半分に刺青のようなものが刻まれていた。よく見てみると顔から首そしてちょうど胸の辺りまで模様が刻まれている。顔の模様を触りながら辿っていると
「はるくん、どうしたの?やっぱり体調が良くない?学校休んでおく?」
「わっ、母さん。大丈夫だよ。元気だし行ってくる」
「そう?無理はしちゃダメよ」
「はーい」
……どうやら母さんにはこの刺青が見えていないみたいだ。きっと妖に関係している何かだと思う。このまま学校に行っていいものか…
いや、何かあってからでは遅い。学校に行く振りをして奏多さんのところに行こう。
おかしい。いつもならもう奏多さんの神社に辿り着いているはずなのに今日は全然辿り着けない。どうして?こんな変な刺青が刻まれたからなのか。奏多さんに連絡を入れるとそこで待っていて欲しいと返事が帰ってきた。一体何が起こっているんだろう?俺は近くにあった階段に腰を下ろし目を瞑って息をついた。
゛ピチョン ゛
゛ピチョン ピチョン ゛
゛ピチョン ピチョン ピチョン ゛
雫の落ちる音が聞こえる。不思議に思って俺は顔を上げた。そうしたら目の前には岩のゴツゴツとした水のある空間が広がっていた。
ここはどこだ?洞窟?奏多さんの所に行こうとして辿り着けなくて階段で一休みしてたはずだ。
洞窟の奥に広がる湖のような所から本当に嫌な気配がする。俺は少しずつ後退しながら出口に繋がるであろう穴に近づいて行く。
「痛っ」
急に刺青のある所が痛み出した。ここなしか熱い気もする。俺はたまらず膝をついた。痛いのか熱いのか分からないけど、とにかくここから早く出なければマズイ。俺は覚悟を決めて穴に向かって走り出した。
がむしゃらに真っ直ぐ走って走って行くと光が見えた。あと少しで出口に辿り着けるそんな時俺の足に黒い触手が巻きついてきた。
「クソっ」
パンッ
「闇より来たりし暗きもの在るべき元へ還れ」
カッ
黒い触手が光に照らされ拘束が緩んだ隙を狙って俺はまた走り出した。
洞窟を抜けると森のようだった。どこにいるのか俺には全く分からない。それでも洞窟から距離をとるべく走り続ける。
開けた場所に出たからここまで来れば大丈夫だろうと思い少しだけ休憩をする事にした。刺青の痛みはさっきよりマシになったけれど、物凄く熱い。スマホは圏外。ここがどこかも分からない。真白が探しに来てくれないかな。木に背を預けてどうしようかと考えていると、
「悠加!!見つけた!!」
奏多さんが来た。
「大丈夫かい?怪我は?」
「大丈夫じゃないです。しんどいです」
「……これは」
奏多さんは俺を見て黙り込んでしまった。どうしたのだろう。
「緊急だから許してね。よっと」
俺は奏多さんにまたお姫様抱っこされた。
「もう大丈夫だから今は少しお休み」
そう言われて俺の意識は深い闇に落ちていった。
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