第20話 水
「よし、これで大丈夫。ちゃんと生き返れたよ」
「ありがとうございます」
俺は結局お姫様抱っこで客間まで運ばれていった。誰にも見られていないからよしとしておくがあんなことは二度とごめんである。人前でされたら恥ずかしくて死ねる。
「さ、今日の勉強を始めようか」
「はい」
色々あって時間ロスをしたけれど、奏多さんの休みをこれ以上削るわけにはいかない。俺は集中して奏多さんの講義に臨んだ。
それから気づけば結構な時間が経っていた。
「うん、今日はここまでにしようか」
「はい、ありがとうございました」
「どういたしまして」
やっと終わった。やっぱりミミズ文字は難しい。だいぶ慣れてはきたけど人によって一癖も二癖もあるから解読が大変だ。奏多さん一度どうやって読んでいるのか聞いたことがある。慣れかなと言われた。俺がこの文字と分かり合えるまでどのくらいの時を要するのだろう。きっと果てしないな。
「悠加、いつもなら家まで送ってあげられるんだけど生憎今日は予定が入ってしまって無理なんだ。1人で帰れそうかい?」
「はい、大丈夫ですよ。それよりも奏多さんの方こそ時間大丈夫ですか?」
「そろそろ出ないと間に合わないかも」
「なら急がないと!俺の事は大丈夫ですから準備して行って下さい!」
「分かったよ。でも気をつけて帰るんだよ?走ったらはだけてしまうかもしれないからね」
「分かってます!着物も綺麗にして後日返します!今日もありがとうございました!」
本当に最後の最後まで意地悪だ。あの人きっと俺の反応が面白いからって遊んでるんだ。はやを出て玄関に向かっていると玄関に置いてある草履履いて帰っていいからね〜と聞こえてきて返事を返して玄関を見てみると靴の中に新聞を詰められた俺の靴と袋、そして草履が置いてあった。準備が良すぎる。きっと奏多さんはスパダリと呼ばれる部類の人だ。
ありがとうございますと奏多さんに聞こえるように叫ぶとどういたしましてと返事が来た。俺は有難く草履を借りて家まで帰った。家に帰ると母から着物について聞かれ、奏多さんのだと答えると何故か写真を撮らせてと言われた。ファンの心理はよく分からない。
やる事を終わらせ自室で一息ついていると窓の外からコンコンと聞こえてきた。カーテンを開けるとそこには真白がいた。一体何の用だ?と窓を開ける。
「よォ、姫さん。俺に挨拶せんと帰るなんて酷いやつやな」
「いきなりなんだよ?ていうか姫さんて何?」
「姫さんは姫さんや。顔真っ赤にして奏多に横抱きされとった姫さん」
「……なんで知ってるの?」
「俺様が知らん事あるかいな、ふはははは」
よりにもよって真白に見られていたなんて.....
最悪だ。今日はツイてない日だ。ずっとニヤニヤしながらこっちを見てくる。
「お前はホンマおもろいやっちゃな〜。見てて飽きひん」
「頼むから忘れてくれ……それから好きでそうなってるんじゃない...」
「忘れたることは出来んけど、お前なんか変やねん。なんか変なもんと関わったりしてへんやろな」
「変?」
「この季節やからしゃーないかもしれんけどお前からは一層水の気配がする」
お前一体何したん?
そこで俺は相談しようと思っていた着物を着た女の事を思い出した。
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