第14話 清風

齋藤さんは黙って俯いたままで表情が見えない。少し生意気すぎただろうか。齋藤さんは俺よりも年上だし黒いナニカを俺よりも相手にしている。声を掛けようとすると


「ふふ、本当に君は優しい子だね。皮肉じゃないよ。本心だから。実を言うと君のことが羨ましくて仕方がない。僕にない力を持っているから」


齋藤さんからすれば俺の力は喉から手が出るほど欲しい力だろう。ずっと渇望してきた力を持った人間が目の前にいるのだから。


「蒼井くんがもっと悪い子だったら良かったのに」


「え?どうしてですか?」


「だって、僕のしてきたことを悪い事だと否定してくれれば僕は楽になれた。それなのに肯定しちゃうなんて本当に人が良すぎるよ」


「俺は本当にそう思って!」


「分かってるよ。君の言いたいことは痛いほど伝わってる。だから、本当にありがとう。僕を認めてくれてありがとう。僕はずっとこうして欲しかったんだと思う」


「…はい」


そう言った齋藤さんは憑き物が落ちたような感じがした。


「さ、次はこれからの事を考えないといけないね。その前に休憩!ちょっと席を外すよ」


齋藤さんは行ってしまった。俺は齋藤さんが用意してくれていたお茶を飲んでいたら後ろから声がかかった。


「悠加、奏多を助けてくれてありがとうな」


「俺は何もしていないよ。齋藤さんが自分で乗り越えたんだ。俺は少し手を貸しただけだよ。真白」


真白とは俺が安静にしていないといけない1週間に沢山話をした。真白は黒いナニカと対峙する齋藤さんの姿が年々酷くなって行く事からもう見ていられなかった。そんな時に俺が現れた。そしてこの池に映る花達を見ることが出来るという事を知って黒いナニカを解放する事が出来ると確信していたらしい。池の花達を見る事ができる人は力の強いものだけで滅多に現れないのだとも教えてくれた。だから真白は解放できる者だからこそ齋藤さんも救えるのではないかと考えた。そして俺がどういう人か知るために小鳥に化けて俺の家に来た。黒いナニカが来たのは予想外だったらしいが。


「でもお前が居らんかったらきっとアカン方向に進んでしもてたはずや。お礼は素直に受け取っとき」


「分かったよ」


因みに真白は俺を危険に晒したことを齋藤さんにこってり絞られたらしく今も齋藤さんに与えられた罰は継続中でまだまだお許しが出ないらしい。齋藤さんには俺は大丈夫と伝えたけれど笑顔で一蹴された。この人はきっと怒らせてはいけない部類の人だと思った。


「早く真白のオヤツ禁止令が解けるといいな」


「ホンマやで!奏多の石頭にも困ったもんやわ!オヤツは俺の生き甲斐やのに俺の楽しみを奪いよって!」


「相手にダメージを与えられない罰なんて罰じゃない。…そう、思わないかい?真白、蒼井くん?」


いつの間にか齋藤さんが戻ってきていた。冷気を纏って。真白は翼を広げたまま固まっている。俺も驚いた。


「ねぇ、真白。君が望むならもっとキツイお灸を据えてもいいんだよ?」


「い、いや、今のままで十分です。ゴメンナサイ」


真白はそういって逃げた。


「本当に困った子だよ。蒼井くんも何かされたらすぐ僕に言うんだよ?」


いいね?といわれ俺は首を縦に振るしかなかった。そして誓った。齋藤さんは絶対に怒らせないと。

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