第13話 懺悔

『ねぇ、どうしてなの?』


子供が俯いて立っている。


『ねぇ、どうして?』


アレは確か


『どうして君が生きているの?』


顔を上げた子供には目がなかった。


「うわぁあああっ」









ガバっ


「ハアハアハア、…夢」


「蒼井くん大丈夫⁉︎すごいうなされていたよ」


「齋藤さん?なんで?俺どうなって?」


「たくさん聞きたいことはあるだろうけど君は今絶対安静ね。動きたくてもしんどくて動けない気がするけど」


そう言われれば何故か体がすごく重たくなった。俺は風邪を引いてるのか?苦しい。


「おそらく極度のストレスと解放の反動が同時に来たんだと思う。当分はゆっくり休んで」


「なんでここに?」


「君のお見舞いだよ。後、ありがとうって伝えたかったんだ。さ、もう今は休んで。元気になったらまた話そう」


額に当てられた手が冷たくて気持ちがいい。だんだん意識が薄れていく。



あれから俺は全快するのに1週間かかった。その間、真白は齋藤さんと俺の家を行き来しているみたいで何故か齋藤さんはウチの母ととても仲よくなっていた。


そして今日俺は齋藤さんの家に向かっている。真白曰く何も知らない人は近寄ることもできないけれど俺は1人で来ることができるらしい。その辺の原理はよく分からない。そうこうしていると辿り着いた。


「いらっしゃい、待ってたよ」


「こんにちは、齋藤さん。これは俺の母からです」


「ありがとう、静香さんにも伝えておいてくれるかな」


「はい」


そうして前と同じ小屋みたいなところに案内された。


「まず最初に無事で良かったよ。連絡を見た時は肝が冷えたけれど」


「勝手なことしてすみませんでした。心配かけてごめんなさい」


「蒼井くんが謝ることはないよ。何も悪くない。むしろ本当に感謝しているんだ」


齋藤さんが言うには俺のした解放と齋藤さんのしている解放は違う。齋藤さんには俺が使った陣を使っても解放はできなくて齋藤さんがしていることは祓う事らしい。黒いナニカを祓う事は妖を元の姿に戻すことができず、ただ悪しきものとして消滅させる事だそうだ。


齋藤さんは昔仲の良かった妖がいたらしい。でもその妖も黒いナニカになってしまった。その妖は黒いナニカになりたてだったからか理性が少し残っていて理性を無くす前に解放した。それが最善だと信じて。けどその妖はずっと痛い苦しいと叫び続けていた、消滅するその時まで。いつもの解放と様子が違うから蔵に篭って書物を漁り続けてやっと自分のしていることが解放ではなく祓う事だと知った。


「あの頃は僕もまだ子供だったから、父に何故嘘を教えたのかと責めたものだ。君に解放と教えたのも僕がしている事を僕自身が信じたくなかったから」


齋藤さんが俺に黒いナニカのことを説明している時悲しそうだった理由がわかった。この人は妖と関わりがあったからこそ解放する事が最善だと信じていた。でも、自分のしていることが妖達にとって苦痛を与えることしかできないことだと悪い事だと悲しんでいるんだ。本当に優しい人。


「俺は齋藤さんがアレを祓っている事が悪い事だとは思いません。あなたが思っている解放とは確かに違うかもしれません。でも、あなたがアレを祓っていなければアレは理性のない本当の化け物として人を襲っていたかもしれません。あなたがアレを祓う事も解放だと俺は思います。あなたは何も間違ったことはしていない。だから、もっと自分を信じてあげて下さい」


俺は確かに齋藤さんとは違って解放ができる。でも、だからといって今まで齋藤さんがしていた祓うことを否定するつもりはない。祓うことだって黒いナニカにとっては解放なんだ。理性を失って他を傷つけるよりずっとこっちの方がいいはずだ。こんな若輩者である俺の言葉がどこまで齋藤さんに届くか分からないけれど、この人は本当に優しい人だから、ぽっとでの俺が現れたせいで自分を否定しないでほしい。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る