第9話 錯迷

あの後、俺は真白に頭を突かれるまで放心していた。追いかけられるなんて驚く事があったのにその上解放だなんてありえない。俺は齋藤さんじゃないし無理だろ。そう思っていたのに


「お前は力が強いさかい、解放できひんくても俺みたいに追っ払うことくらいはできる。」


なんて宣ってくる。俺はついこの間まで何も知らない高校生だったんだが?真白がさっきみたいに追い払ってくれたらいいのでは?


「ええか?俺にも限界はある。解放してやれるならそれが一番なんや。それに出来るかどうかはやってみな分からんやろうが。奏多はあと3日は帰って来ん。それまではどうにかせなお前…死ぬで」


「俺が…死ぬ?」


「せや、今アレにある感情はお前を喰らうことだけや。やからどうにかせなあかん。俺はアレを解放することはできんけどお前にその方法を教えたることはできる。やらなやられるで。覚悟決めや、悠加」


黒いナニカをどうにかしなければ俺が死ぬ。どうして今になってこんなことになるんだ。あの日から他の人達のように普通に生きるそう決めたのに、それすらもできないというのか。みんなとは違うものが見えるが故に普通に生きることもできないのか。俺はただ普通に生きようとしているだけなのにどうして…


「おい、いつまでもウダウダ悩んでんとちゃうぞ!今!お前が生きるためにせなあかんことはアレをどうにかすることや!変な事考えるんは生き延びてからにせい!考えるんは後でもできるやろうが!」


「真白…」


「ホンマにけったいなやつやな!なんで目の前のことが考えられんのや!どいつもこいつもうっとしいわ!」


真白のいう通り考える事は後でできる。今この状況をなんとかしないと母さん達まで巻き込んでしまうかもしれない。それは嫌だ。俺のせいで他の人が傷つくのは絶対に嫌。だから、今、俺にできる精一杯のことをする。


「真白、黒いナニカを解放する方法を教えてくれ、頼む」


「ふん、やっと覚悟決めたか。ホンマにお前ら人は面倒いな。もっとスパッと生きたらええねん」


「うん、ごめん。色々とありがとう、真白」


真白が来てくれなければ俺はここにいなかった。あの黒いナニカに呑み込まれて死んでいたかもしれない。真白のおかげで色々冷静に考えることができた。言葉の節々はキツい所はあるけれどそれはきっと心配してくれているからなんだろう。


「早よ立て!早よ帰らなお前のオカンが心配するで!諸々はまた明日や!早よ帰るで!」


「うん。というか真白も家に来てくれるの?」


「?何言うとんねん?一緒に生活してるやないか?」


「は?」


「ああ、チビやから俺様の変身に気付かれへんかったか。そら、悪い事したわ〜。ほんならこれからもよろしく頼むで。飼い主なんぞ探しても出て来おへんねんから」


そういってボンッと音がたった先にいたのは


「ピィ」


ウチで保護した白い鳥だった。あまりの出来事に呆然としていると


「なんや、俺様が可愛すぎて声も出んってか。可愛ええのも罪やなぁ」


「悪夢だ」


「なんやとゴラァ」


あの可愛いフォルムであの口調はダメだ。この世に存在して良いものじゃない。本当に黙っていれば美人なのに、喋ると全てが台無しになっている…


でも、本当に真白のおかげで心に余裕ができた。このギャップは認められないけれど本当に助かった。まだ不満なのかピイピイ鳴いている真白にもう一度お礼を言う。


「真白、本当にありがとう」


「やかましいわ!アレをどうにかしてから礼は言え!怪我もしてるんやから早よ帰んで!」


ああ、そういえば怪我していたな。そんな事すっかり忘れていた。怪我をした自覚をしてきたからだんだんと痛くなってくる。


「真白が怪我のこと言うから痛くなってきた」


「そら、悪いこって」


「なぁ、真白」


「なんや?」


「お前が言ってたけったいなやつってどう言う意味?」


「ググれや」


「………はは、あはははは!」


「何がおかしいねん!」


妖がググれなんてそんな事言うなんて思わないだろ、普通。何でその言葉知ってるんだ。というか、妖にググれなんて言われたのは俺くらいじゃないか?ひとしきり笑った後何故か真白がいるなら明日もどうにかなりそうなそんな気がすると俺は思った。
















この後母さんからの盛大な雷が落ちたことをここに記しておく。
















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