第6話 思案
「…妖の成れの果て」
「そう、成れの果てだよ。長い長い時を生きているからだんだんおかしくなってしまうのだろうね。そうなってしまえばもう元には戻れない。だから、それを解放しているんだ。」
妖が長く生きるのは知っていた。でも、妖がおかしくなることなんて考えた事なかった。人よりも長い時間を生きるから気ままに自由に生きているものだとそう思っていた。
「妖だって感情があるんだよ。人に比べたら少し鈍いところもあるけれどそれでも彼らも生きている。彼らも人と同じで生きているんだよ。それは知っていて欲しい」
そう言った齋藤さんはとても切実で俺には返事をすることしかできなかった。妖も生きている。俺は今まで自分が普通であるために妖から逃げていた。それは果たして正解だったにだろうか。
「さ、暗い話はここまで。お茶もお菓子も絶品だから食べちゃってね」
「はい。あともう一ついいですか。あの黒いナニカを解放するのは齋藤さんだけなんですか?」
「いや、他にもいるよ。僕みたいに術師の家系の人たちがいる。妖自体が嫌いな人だったりとか好奇心旺盛な人とかとにかく個性豊かな人たちが多いよ。でも気をつけたほうがいい。僕みたいに温厚なやつばかりじゃないから」
「気をつけます。俺は最初に会ったのが齋藤さんでよかったって思っていいんですかね」
「そうだね〜。一度目は偶然だろうけど二度も見られるなんて思っていなかったし僕もびっくりしたよ。なぜか記憶は消えていないし本当にびっくりした」
まぁ、俺の存在を忘れるほどパニックになっていたみたいだから本当に俺の記憶が戻ったのは齋藤さんにとって本当に予想外だったのだろう。だが、あのまま置いていかれるのも俺にとっては予想外のことだったんだけどな。
「あ、そういえば間に合ったんですか?2回目会った時に遅刻って走っていきましたけど」
「あ、あはは〜。あの時は置いていったりして本当にごめんね。あの後はほらねぇ」
多分笑おうとはしているのだろうけれど、ものすごい顔が引き攣っている。間に合わなかったんだな。話を誤魔化したいのかお茶とお菓子の追加を持ってくると急いで行ってしまった。まだ最初に持って来てもらったものが残っているのに。
齋藤さんは俺に正直に話してくれた。どうしてだろう。一度目は記憶を消していたのだから二度目だってそうできたはず、なぜそうしなかったのだろう。教えてもらえたと言うことに関してはもう何も言うことはない。でもまた疑問が生まれてしまった。出されたお菓子をちまちま食べていると
「おい、チビ」
「なんだよ、クソ鳥」
「名前教えろ」
「それが人にものを頼む態度か」
「名前教えろ」
「はぁ、蒼井悠加だ」
「真白や」
そういうとクソ鳥こと真白は飛び立って行った。本当に何がしたかったんだ?
「おまたせ、何かあったのかい?」
「いえ、ただなんで齋藤さんがすんなり俺に教えてくれたのかなと思って」
「ああ、そうだね。なんとなく君には話しても大丈夫かなって思ったから。僕の直感かな。そんな顔しなくても大丈夫だよ。僕の直感は結構評判なんだよ?よく当たるって」
「そうですか」
悩んで損した。
因みに夜中のコンコン事件の犯人は真白でした。
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