第5話 話合

俺が蒼井要を追いかけて行った先には鳥居の所と違って金木犀が咲き誇っていた。


「不思議でしょう。ここはね、切り取られた空間だから四季関係なく色んな花が咲いているんだよ。怖い?」


「…少し怖い気もするけど、こんな綺麗な景色は普通じゃ見られないからちょっと得した気分です」


本来なら同じ季節に見ることができないものを同じ時に見ることができるということはなんと贅沢なことだろうか。知らない花もあるけれどきっとあれも普通なら違う時に見られる物なのではないかと思う。


「そう、ならよかった。ならこっちだよ」


案内されたところは、四方が見渡せるようになっている小屋みたいなところだった。


「本当は客間に案内しようと思ったんだけれど、この景色をお気に召してくれたみたいだからこっちに案内させてもらったよ。少し待っててね」


そう言って蒼井要はどこかにいってしまった。でも、この小屋から見れる景色はとても綺麗だ。ファンタジーでいうところの桃源郷に迷い込んでしまったような。少し身を乗り出して池を覗いてみると数匹の鯉がいたかと思えば池の底にも多種多様な花が咲き誇っている。それに瞬きをするごとに見える花の種類が変わっていく。一体どういったカラクリなんだろう。普通に咲いているのを見るのも綺麗だけど、池の中に咲いてるのは一段と綺麗で神秘的だ。


「おい、チビ。それ以上身ィ乗り出し出して落ちんなや。奏多に余計な手間かけさせたらしばくぞ」


「うん、わかってる」


「おい、ほんまに聞いとるんか。池覗くんの何がおもろいねん。対して見えてへんくせに。」


「情緒のない鳥のお前には分からないんだよ。池の中にこんなに綺麗な花たちが咲いているのに」


「……チビ、おまえ」


「おまたせ。遅くなってごめんね」


「いえ、色々楽しめたので大丈夫です」


お茶とお菓子の用意をしてくれてたらしい。とても美味しそうだ。あの鳥はどこかに飛んで行ってしまった。


「さ、改めて自己紹介からかな。僕の名前は齋藤奏多。知っているかもしれないけど俳優をしているよ。蒼井要って知ってるかな?」


「はい、知ってます。苗字が同じなのと母が大ファンなので。俺の名前は蒼井悠加です。高校生1年生です。あなたの事は齋藤さんって呼んだ方がいいですか? それとも蒼井さん?」 


「どちらでも構わないよ。苗字が同じなんて凄い偶然だね。なんか運命を感じるなぁ。サインいる?」


「いりません。めんどくさい事になると思うので。あと蒼井が2人だとこんがらがりそうなので齋藤さんて呼びますね。齋藤さん、俺はあの黒いナニカについて知りたいんです。教えて貰えませんか?」


俺は世間話をするためにここに来たのではない。あの時の事を聞くために来たんだ。まぁ、正確には誘い込まれたのだけど。齋藤さんはすんなり教えてくれるだろうか。


「うん、もちろん。最初に確認なんだけど蒼井くんって見えてるよね、妖の事」


「はい、小さい頃から見えてます。でも俺にしか見えなかったからずっと隠して見ないふりをしていました。そうすれば妖が俺に興味を持つこともなかったので」


「そう、大変だったね。次に蒼井くんは妖の事についてはどのくらい知ってる? 」


「…俺は妖については人と違うという事しか知りません」


「うん、そうだね。彼らは人とは違う存在だ。人よりも長生きするし、食べる物も価値観も何もかもが違う。でも、長い長い時間を生きる妖達がおかしくならないとは限らない。むしろ長い時間を生きるからこそおかしくなっていってしまう。その成れ果てが蒼井くんの言う黒いナニカなんだよ。」


そう話してくれた齋藤さんはどこか悲しそうななんとも言えない表情をしていた。


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